第189章 クズ男の嫌がらせ

朝八時すぎ。

温井知夏はスタジオに着き、いつもどおり一日の仕事を始めた。けれど頭の中では、車内でのあの曖昧な距離感が何度も再生されてしまう。いったん引いたはずの熱が、頬にじわりと戻ってきた。

「……考えるな」

苛立ちまじりに、こつこつと自分の頭を軽く叩く。

一方――黒崎グループ本社。

最上階、社長室。

黒崎冬馬は口元にかすかな弧を描いたまま、書類に目を落としていた。普段なら近寄りがたいほど冷えた端正な顔立ちが、今だけはどこか柔らかい。

そこへ秘書がノックして入ってくる。

「黒崎社長。津崎富岡の会社との案件は、すべて停止いたしました」

「よくやった」黒崎冬馬は淡々と言い、「通...

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