第55章 旧日の恩情

「てめえ――!!」九条司の顔色が、みるみる鉄青に変わる。

黒崎冬馬はもう彼を振り返りもしない。無言のまま足を進め、エレベーターを降りた。

九条司は怒りで全身が震え、扉が自動で閉まってようやく我に返る。慌ててボタンを押し、エレベーターを呼び戻して追いかけた。

クラブの入口。

九条司は二人に追いつき、焦った声を上げる。

「知夏、あいつと行くな……」

「九条司、いい加減にして!」温井知夏は小さな顎を上げ、露骨な苛立ちを顔に出した。

九条司が手を伸ばす。

「知夏、ちょっとだけ聞いてくれ。誤解が――」

「触らないで」

温井知夏は避けるように反射的に一歩下がり、背後に黒崎冬馬が立って...

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