第58章 父娘二人を目撃する

「……いいえ」温井知夏は、これ以上彼に手間をかけたくなかった。

黒崎冬馬が彼女の言葉を遮る。

「知夏。君自身のことを後回しにするなら、せめてお母さんのことを考えてくれ。俺に任せて、手配させてくれないか」

一拍置き、視線を外さずに言葉を落とす。かすれた声だった。

「ただ、君たちに何かあってほしくないんだ」

温井千代とはそれほど接点があるわけじゃない。けれど、彼女が自分に向けてくれた好意は、嘘でも建前でもなかった。何より――温井知夏の母親だ。

男の目には、心配と、懇願とが滲んでいた。

温井知夏は、ようやく折れる。

「……分かった。お願いする」

それを聞いた黒崎冬馬の肩から、張り...

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