第76章 瀕死

「別に、あたしがあんたを縛って連れてきたわけじゃないでしょ。あんたが生きようが死のうが、あたしの知ったこと?」

清水環奈は冷笑し、瞳いっぱいに毒をたたえた。

「温井知夏――あんたなんか、とっくに死んでればよかったの。あんたさえいなきゃ、司はあたしのところに戻る!」

言い合っているあいだにも、池の水は容赦なく増え、胸元まで迫っていた。

温井知夏は下唇をぐっと噛みしめ、鉄のような血の味を舌に感じた。背中はぐっしょりだ。冷や汗なのか、水なのか、もう分からない。

「私が死ななくても、九条司はあなたのものよ。ほんとに、奪ったりしない」

憎しみをひとまず脇に置かせようと、必死に言葉を選ぶ。

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