第9章 私はとても好きです

「いえ、黒崎さん。大丈夫です」九条知夏は慌てて言葉を挟んだ。「大したことじゃなくて……家で少し休めば治ります。すぐには赴任できないので、お仕事の開始を少し延ばしていただけないか確認したくて」

「もちろん」

男は一瞬の迷いもなく答えた。

ほっと胸を撫で下ろす一方で、知夏の中に小さな違和感が残る。

「しっかり治してください。仕事は急ぎません。治ったらいつでも」

「ありがとうございます、黒崎さん」九条知夏は心から礼を言った。

「気にしないでください」

通話を切っても、九条知夏はしばらく立ち尽くしたままだった。

三十分後、インターホンが鳴る。

足を引きずりながら玄関へ向かい、扉を開...

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