第5章
玲子視点
ジャズバー「白砂ビーチ」の入り口に、私は立っていた。シンプルなTシャツとジーンズの生地を指でなぞる。その感触は奇妙で、それでいてどこか懐かしかった。
蓮司が選んだブランドものの服じゃない。念入りにセットされたロングヘアでも、重たい高価なジュエリーでもない。蓮司に「大学のインテリスタイル」と揶揄された、あの黒縁の眼鏡までかけている。
『これが本当の私』
そう思いながら、バーの重たい木製のドアを押し開けた。
哀愁を帯びたジャズの旋律が、私の心臓に直接語りかけるように、静かに、そして深く流れ込んでくる。テナーサックスの、低く掠れた響きは、まるで私の過去の過ちを赦し、同時...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
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