第56章

病院。

柚木結華は、ようやく主治医の出勤を待ちきって退院手続きを済ませると、そのまま外へ出た。歩道の縁に停まっているストレッチリムジンが目に入る。

「柚木様、どうぞ」

白い手袋をはめた運転手が車を降り、慇懃にドアを開けて腰を折る。

「私たち、帰り道が同じじゃないわ。送迎は結構です。ありがとうございます」

柚木結華はその場で品よく立ち止まり、男の手からアタッシュケースを受け取ると、少し離れて無言で佇む九条獅堂へ向けて言った。

「今回の入院費、LIMEで送金する」

九条獅堂の瞳は深い淵のように暗く、視線がこちらを掠めただけで、見えない圧が肌を撫でた。

柚木結華は落ち着かず、今の言...

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