第46章 不快

ただ挨拶をするためだけ?

来栖琴音は、そんなはずがないと思った。今日だけで三度も顔を合わせているのに、そのうち二回は仕事とは関係がない。

浅野琉生の視線と、まともにぶつかるのが怖い。

あの夜、骨の髄まで冷えた湖の水の感触が、まだ皮膚に残っている気がする。

あの夜の、みっともない自分を――相手だって忘れるはずがない。

彼の胸にすがりついて、声が枯れるほど泣いた。

それからそう時間も経っていないのに、今度は川島治と公の場で仲睦まじく振る舞っている。自分で自分の頬を叩いているようなものだ。

琴音はあの夜、自分が何を口にしたかを思い出し、同時に安堵もした。浅野は完璧な紳士で、なぜ泣いて...

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