第56章 キス

週末じゃないせいか、店内は客でごった返していた。けれど注文を通してからの動きは早く、店員はすぐに運ばれてきた料理と酒を手際よくテーブルに並べる。

浅野琉生は軽くうなずいて合図し、店員を下がらせた。

彼は自分の手で杯に酒を注ぎ、来栖琴音の前へすっと押しやる。

「付き合え」

「……私に付き合って飲むの?」来栖琴音は半信半疑で眉を寄せる。「なんで?」

浅野琉生は飾り気なく言った。

「その顔、見たくない」

その一言が胸に落ちた。琴音は杯を取り、琉生の杯にちん、と軽く当てて――喉を鳴らし、一気に飲み干す。

「……おいしい」

驚いたように唇をなぞる。口の中に残る、ふわりとした香り。

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