第30章 お前より分かっている

そのときだった。別の入口から、白鳥空弥が会場へ足を踏み入れた。

今日は仕立てのいいダークグレーのスーツ。入った瞬間、癖みたいに会場を一瞥して――視線が、外側に立つ林田柊で止まる。

黒のパンツスーツは無駄がなく、髪はきっちりと後ろでまとめられていた。

以前のように台所の周りを回っていた疲労もない。いつも俯いて、従順で、卑屈だった気配もない。

白鳥空弥の呼吸が、ほんの一瞬だけ詰まった。

家で、いつでも自分を待っていて、どれほど冷たくしても離れない女。

彼は、そんな「当たり前」に慣れきっていた。

それが今は――エリートたちの社交の場に、堂々と立っている。眩しいほどに。

自分の庇護な...

ログインして続きを読む