第339章 狼狽する篠崎家の若様

千謙の視界は最悪だった。辺り一面、煙に巻かれて何も見えない。

彼は大声で叫んだ。

「檸檬、どこだ!」

焦燥に駆られながら周囲を探し回る。これほど時間が長く感じられたことは、かつてなかった。

檸檬、一体どこにいる——。

「……ここ、です」

微かな声だ。千謙は音のする方へ向かい、部屋の隅、花瓶の裏に身を潜めている檸檬を見つけた。すぐそばには窓がある。

彼女は小さく縮こまり、その腕にはサンプルをしっかりと抱え込んでいた。千謙は駆け寄るなり、着ていたジャケットを脱いで彼女に被せる。

「サンプルのために命を捨てる気か!」

その声には怒気が混じっていた。

檸檬は何か言おうとしたが、激しく咳...

ログインして続きを読む