第5章

「あなたは誰ですか」

 その言葉を耳にした瞬間、和栄の顔に貼りついていた深情けな表情は音を立てて砕け散った。最後に残ったのは、滑稽でありながらも不気味に強張った仮面だけだった。

「佳代子、冗談にもほどがあるぞ」

 長時間の待機と過度の焦燥によって、彼の声は干からびたように掠れ、苛立ちに震えていた。

 彼は無意識にその手に力を込め、私の〝理性〟を呼び覚まそうとした。

「離婚届にサインした直後に記憶喪失のフリか? 幼稚すぎる。隣の部屋ではみどりがお前を待っているんだぞ……」

 私は反射的に手を引っ込めた。まるで焼けた鉄に触れたかのように、身体が本能的にベッドの反対側へと後ずさる。

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