第6章

善和はほとんど一睡もしておらず、目の下の隈は一層濃くなっていた。

「善和くん、とても疲れているみたいね」

私はそっと気遣うように声をかけ、朝食を彼の方へと押しやった。

「昨夜のパーティーは疲れすぎたのかしら? でも、透くんの演奏は本当に素晴らしかったわ。ゲストの皆さんも絶賛していたもの」

橘善和の、コーヒーカップを握る手が微かに震える。彼が何かを言おうとしたその時、不意に鳴り響いたテレビの音に遮られた。

「……昨夜、帝国ホテルにて催されました橘財閥ご子息の誕生日パーティーが、業界の注目を集めております。席上では、国際的に著名なピアニストである水野透氏による素晴らしい演奏が、宴...

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