第291章

神代夢子は、鈴木直哉より何十年も長く生きてきた人間だ。たった一言で、急所をえぐってみせた。

鈴木直哉は口元をぎゅっと引き結ぶ。膝下の痛みすら、もう感じない。

どうして?

決まっている。

不甲斐なさと、悔しさだ。

まだ始まってすらいない水原念との恋が、このまま終わってしまうことが、どうしても受け入れられなかった。

水原念が、別の男に嫁いでいくのを、指をくわえて見ているしかないのが、たまらなかった。

自分だけがこの秘めた想いの中で傷ついているのに、念は何事もなかった顔で、別の男と笑っている――それが、許せなかった。

だから理性では、念と結婚すべきじゃないと分かっていても、心の奥で...

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