第106章 彼女は失望させない

黒田奏多はスマホを握る手をぴたりと止め、瞳の奥に一瞬の迷いを走らせた。

橘芹奈はただの専業主婦だ。そんな大層な真似ができるはずがない。

「社長、再調査いたしましょうか」

電話の向こうで、黒田奏多からの指示がないことに戸惑った秘書が、躊躇いがちに尋ねた。

黒田奏多はその写真をさらに長い時間見つめた後、心の中に自然と一つの推測が浮かび上がった。

映像はブレが酷く不鮮明で、肝心な瞬間に遮蔽物が入ってしまい、誰が運転しているのか判別不可能だ。

橘芹奈という女の最大の特徴は、繊細で臆病なところだ。二人の子供が幼い頃など、怪我一つさせまいと一日中神経を尖らせ、それこそ手の中で宝物のように守り...

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