第270章 橘芹奈がいなくなった

橘芹奈が目を覚ましたとき、自分が見知らぬ場所にいることに気づいた。

目隠しをされ、口には猿ぐつわ。耳に届くのは、白いノイズじみた虚ろな静けさだけ。

この状況では、どこにいるのか判断のしようがない。

ただ一つ分かるのは――もう移動は止まっている、ということだった。

「親分、この女、けっこうイイ面じゃん。さっさと流しちまうの、ちょっと損じゃね?」

不意に、橘芹奈は訛りのきつい声を耳にした。

まるで自分の舌をやっと手懐けたみたいな、妙にぎこちない喋り方だ。

どん、と重い音がする。誰かが何かを叩いたらしい。

「お前、虎か? 警察が証拠掴めないのが不安で、わざわざ出前でもしてやる気かよ...

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