第279章 どうか私を忘れないで

橘芹奈は、肌にまとわりつくような冷気をもう感じていた。

全身の細胞が、今この瞬間にも自分がこいつらの手で殺されるのだと受け入れてしまっている。

橘芹奈は、苦労して隠し持っていたカッターを握りしめた。さっき、手首の縄を切りかけたところだった。

掌はぐちゃぐちゃに裂け、血と肉が混じっている。だというのに――救助隊の気配を、先にこいつらが聞きつけた。

もう何もかも放り出して、誘拐犯たちは人質の橘芹奈を引きずるようにして、建物の「本当の」屋上へ駆け上がった。

製鉄所が移転してから十年以上。残っている金属といえば手すりだの柵だの、その程度……そしてその手すりすら、とうの昔に盗まれて、屋上はほ...

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