第280章 ご多幸を祈ります

黒田奏多の時間は、橘芹奈が救い出された、あの日で凍りついたままだった。

搬送が間に合ったおかげで命だけは取り留めた。けれど――本当に、命だけ。

犯人のリーダーが振り下ろした刃は、ちょうど細い動脈を、しかも心臓寄りの位置で貫いていた。

出血量があまりにも多く、脳が酸欠にさらされた時間が長すぎた。

まる半月。黒田奏多は、いまだ目を覚ます気配すらない。

介護スタッフはいつも通り、体を拭いてマッサージをし、褥瘡予防のケアを終えたところだった。

橘芹奈は、さっき煮込んだ滋養スープをテーブルに置く。

「半月よ。約束したじゃない、離婚しに行くって。いつまでも起きないなら……またわざと引き延ば...

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