第2章
春川真希視点
暗闇の中、ベッドに横になりながら賢治のことを考えている。彼は私たちの隣の別荘の二階に泊まっているけれど、みんなが馬鹿騒ぎしている輪に加わることは滅多にない。グループで集まる時も、いつも後ろの方で静かに座っているような物静かな人。そもそも、こんな団体旅行に来るなんて思ってもみなかった。
なぜ彼のことを考えているかというと、三日前に見た、あのすべてを変えてしまった夢のせいだ。あの時はただの悪夢だと思った。でも、三日間様子を見てきて……もう、そうとは言い切れなくなっている。
夢は、裕也の盛大な告白シーンから始まった。安っぽいイルミネーションの下で、彼が悠里に愛を告げるのを、私はただ突っ立って見ている。みんな、私がいつキレるか待っている。ドラマを期待しているのだ。
そして私は、その期待に応えてしまった。
人混みをかき分け、裕也に向かって叫び始める。「やめてよ!私のこと待つって言ったじゃない!」ああ、なんて哀れな声だったんだろう。誰もがスマホを構え、その一部始終を撮影している。悠里は消えてしまいたいという顔をしていた。
裕也は、靴の裏についた犬の糞でも見るような目で私を見つめた。「本気で言ってるのか?俺はそんなこと一度も言ってない。みっともない真似はやめろ」
「でも、私たちずっと――」
「何でもなかっただろ」彼の声は氷のように冷たかった。「お前が彼女より選ばれるとでも本気で思ったのか?」
周りの人たちが笑い出した。私を、本気で嘲笑っていた。誰かが「哀れなやつ」と叫び、それで私の何かがぷっつりと切れた。
私は湖へと走った。飛び込むとか、そんなドラマチックなことを考えていたわけじゃない。ただ、あの顔、顔、顔から逃げたかっただけ。でも、桟橋は濡れていて、ヒールが滑った。
水は凍るように冷たかった。息をしようと水面に顔を出すと、みんなが駆け寄ってくるのが見えた。誰かが私を引きずり上げている間も、私は「事故なの!本当に事故なの!」と叫び続けた。
誰も信じてくれなかった。みんな、私が裕也のことで自殺を図ったんだと思い込んでいた。
「完全にイカれちまったな」と誰かが言った。
「マジで恥ずかしい」と、また別の声。
裕也は、まるで私が存在しないかのように悠里と連れ立って去っていった。
一時間後、両親がやってきた。母は私と視線さえ合わせようとしない。「荷物をまとめなさい」と母は言った。「しばらく加奈おばさんのところに預かってもらうから」
「お母さん、お願い、説明させて――」
「あなたは今夜、私たちに恥をかかせた。愛莉にこんな姿を見せるわけにはいかないの」
加奈おばさんは父さんの変わった従姉で、古びたアパートに住んでいた。ほとんど知らない人だったけれど、私には他に頼る場所がなかった。
最初の週は何事もなかった。加奈おばさんは奇妙な人だったけど、まあどうでもよかった。けれど、彼女の彼氏が気味の悪い友人たちを連れて現れた。彼らは私をじろじろと見つめ、まるで私がそこにいないかのように私の話をした。
「結構いいタマじゃねえか」と男の一人が言った。「高く売れるんじゃねえの」
両親に電話しようとしたけど、番号はブロックされていた。
そして、加奈おばさんが私の食事に薬を入れた。
目が覚めると、私はバンの荷台にいて、手首は結束バンドで縛られていた。他にも女の子たちがいて、みんな怯えて泣いていた。男たちは、まるで私たちが車の部品でもあるかのように、臓器を売る話をしていた。
「こいつは若いな」誰かが私をつつきながら言った。「腎臓は高く売れるはずだ」
私はどこかの倉庫の、金属製のテーブルの上で死んだ。最後に見たのは、点滅する裸電球だった。
でも、そのあと奇妙なことが起きた。死んだ後も、すべてが見えていたのだ。まるで上から浮かんで、すべてを眺めているみたいに。
何週間も、何か月も過ぎた。誰も私を探しに来なかった。
小野賢治を除いては。
行方不明者届を出してくれたのは、彼だけだった。ネットのあらゆる場所に私の写真を投稿し、目撃情報を募っていた。私の遺体が見つかった時も、身元確認に来てくれたのは彼だった。お葬式の費用を出してくれたのも。
そして、そこにいたのも彼一人だけだった。
山田裕也は来なかった。両親も来なかった。愛莉も来なかった。
ただ賢治だけが、私のお墓のそばに立って泣いていた。
あの夢は、今まで経験したどんなことよりもリアルに感じられた。そしてこの三日間、すべてが夢で見た通りに進んでいる。ただ一つ、今日の裕也の告白の場で、私が騒ぎを起こさなかったことを除いては。
でも、どうして賢治が私のことを? 私たち、ほとんど話したこともないのに。
そう考えると、胃がひっくり返りそうになる。もしあの夢が本物で、何かの警告だったとしたら、私は未来を変えられる。自分を救うことができる。
そして、もしかしたら、賢治が本当に私のことを気にかけているのかどうか、確かめられるかもしれない。
私はスマホを手に取り、賢治の番号までスクロールする。指が通話ボタンの上でためらった。
こんなの、馬鹿げてる。もし私が完全に間違っていたら? もし彼に、頭がおかしくなったと思われたら?
でも、私のお葬式で、たった一人で泣いていた彼の姿を思い出す。もし彼が気にかけてくれている可能性が少しでもあるのなら……。
私はベッドから起き上がり、クローゼットからワンピースを一枚掴んだ。これを試すなら、とことんやらなくちゃ。
二十分後、私は夢で見たのと同じ湖のほとりに立っていた。月明かりに照らされた水面は、黒く不気味に見える。深呼吸をしてから賢治に電話をかけた。
二コール目で彼が出た。「真希さん?」
眠そうだけど、心配そうな声。心臓の鼓動が速くなる。
「賢治さん、私……」声を震わせ、怯えているように装う。「散歩してたら、滑って……。湖に落ちちゃったの。びしょ濡れで、このままじゃみんなに見られちゃうから、どうやって戻ればいいか……」
彼がベッドから起き上がるような、衣擦れの音が聞こえた。
「どこにいるんだ?」
「本館の裏にある、木の桟橋」
「そこにいろ。すぐ行く」
電話が切れた。あまりの反応の速さに、私はスマホを見つめて呆然とした。
彼は一瞬もためらわなかった。
私は浅瀬に入り、ワンピースと髪を濡らす。冷たい水に思わず息を呑むけれど、これを本物に見せるためには必要なことだ。震えながら桟橋に這い上がると、木々の間からヘッドライトの光が見えた。
賢治の車が停まり、彼は車が完全に止まる前に飛び出してきた。スウェットパンツにTシャツ姿で、髪は寝癖で乱れている。その手には厚い毛布が握られていた。
「大丈夫か、真希さん、凍えてるじゃないか」彼は駆け寄ってきて、毛布で私を包み、自分の胸に引き寄せた。「一体こんなところで一人で何をしていたんだ?」
髪から滴る水滴をそのままに、彼を見上げると、彼の瞳の中にあるものを見て息が止まった。ただの心配じゃない。恐怖だ。私に何かあったかもしれないという、本物の恐怖。
嘘でしょ。夢は正しかったんだ。彼は本当に、私のことを……。
「眠れなくて」私は歯をカチカチ鳴らしながら囁いた。「頭を冷やしたかったんだけど、桟橋が滑りやすくて……」
彼は私の肩に腕を回し、車まで誘導してくれる。「溺れるところだったぞ。ここの湖は見た目より深いんだ」
彼は私を助手席に乗せ、暖房を最大にする。ロッジに戻る車中、ダッシュボードの明かりに照らされた彼の横顔を見ていた。顎のラインは緊張し、ハンドルを握る手には力が入っている。
「部屋まで送っていくよ」ロッジに着くと彼が言った。
「いや」私は言った。「その……湖に落ちたばかりなの、賢治さん。今は一人になりたくない」
彼は私を見つめ、何かと葛藤しているのが見て取れた。「真希さん……」
私は唇を少し震わせてみせた。「お願い。私のこと、ちょっと濡れたくらいで大騒ぎする、甘やかされたお嬢様だって思ってるかもしれないけど、本当に怖かったの。もし誰も見つけてくれなかったらって、ずっと考えてた」
彼の表情が和らぐ。「そんな風には思ってない。ただ……わかった。部屋から乾いた服を持ってくるから、シャワーを浴びておいて」
「バスルームはあそこだ」彼は指差して言った。「好きなだけ使ってくれ」
「賢治さん、私のタンスの一番上にあるものでいいから、適当に取ってきて。一番上の引き出し」私は彼に微笑みかける。「こんなことまでしてくれて、本当に優しいんだね」
彼の頬が赤くなる。「大したことじゃない。十分で戻る」
彼が出て行った瞬間、私は素早く動いた。彼のクローゼットへ行き、白いボタンダウンシャツを見つける。彼のコロンの香りがした。顔を埋めたくなるような、清潔な香り。
世界最速でシャワーを浴び、彼のシャツを着る。丈は太ももまであり、袖は手の先まで隠れる。完璧だ。
髪を滴らない程度に乾かし、彼のベッドに上がって待つ。
ドアに鍵が差し込まれる音が聞こえると、心臓が跳ね上がった。
賢治が私の服の入った袋を持って入ってくる。彼は顔を上げ、そして凍りついた。
私は彼のベッドの上で、彼の白いシャツ一枚だけを身につけて、あぐらをかいて座っている。窓からの月明かりで、生地が透けていた。
「気にしないでくれると嬉しいな」私はシャツを太ももまで伸ばしながら言った。「賢治さんのシャツは大きすぎるけど、賢治さんの匂いがするから安心するの」
彼は袋を落とした。口が開くが、音は出てこない。
私は首を傾げ、髪を肩に流した。「でも、一つだけ問題があるの」
「何がだ?」彼の声が上ずる。
私はベッドに視線を落とし、それからできる限りの無垢な表情で彼を見上げた。
「賢治さんのシーツ、濡らしちゃった。どうしようか?」
