第8章

東区の縄張りの引き継ぎに伴う同盟締結の儀式は、準備が最終段階に入っていた。

私は雨森組の酒蔵に立ち、ずらりと並んだ年代物の名酒に指を滑らせながら、眉を顰めていた。

「松本、どちらの清酒がより相応しいと思う? これは両組織の面子に関わることよ」

私は一本の清酒を手に取り、そのラベルを注意深く眺める。

「秋倉会の方々は辛口を好み、うちの組は甘口に慣れています」

松本絵里が答えようとしたその時、不意に私のスマートフォンが振動し、画面に裏社会の情報網からの特別速報が表示された。

リンクを開いた私は、一瞬にして言葉を失った。

藤原成俊が「富士山まで一歩一跪」の誓いを履行してい...

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