第1章
子供を失ったその日、私は夫が妊娠した愛人と口づけを交わしているのを知ってしまった。
流産の知らせを聞くや否や、晴貴は病院へ駆けつけた。
「千佐、すまない」
彼は私の手を強く握りしめた。その目は赤く充血している。
「子供はまた作ればいい。約束するよ。君さえ無事なら、他には何もいらないんだ」
また、作ればいい。
まるで、私たちが失ったものは代替可能な品物であるかのように。
彼を見つめ返すと、胸が引き裂かれるような痛みが走った——かつて私に安らぎを与えてくれたその瞳は、今や底なしの奈落のように見えた。彼が決して明かそうとしない秘密を飲み込んだ、暗い穴。
もしこの目で見なければ、私は永遠に信じなかっただろう。かつて私を救い、一生の愛を誓ったこの男が、別の女に子供を孕ませていたなんて。
昨夜のことだ。晴貴は急用ができたと言い、コートを掴んで慌ただしく家を出て行った。
あまりに急いでいたせいで、彼はテーブルの上にスマホを忘れていったのだ。
呼び止めようとしたその時、画面が明るくなり——産前検診のリマインダーが表示された。
『林原姫子 16週定期検診 明日午後3時』
林原。晴貴の秘書だ。
妊娠十六週。
当時、私は妊娠六ヶ月だった。
その通知を見つめた瞬間、心臓が鷲掴みにされたかのように息が詰まった。
私は晴貴の車を尾行し、都心にある高級マンションへと辿り着いた。
そして、リビングの大きな窓越しに、見てしまったのだ。
晴貴が彼女を壁に押し付けている。
彼は彼女の太腿を両手で支え上げ、その脚を自身の腰に絡みつかせていた。
唇から首筋へと、貪るように這い回る舌。
彼女は頭を反らせ、晴貴の髪に指を絡ませて、より強く彼に密着していく。
彼の手が彼女の体の上を這う——そのあまりに手慣れた動きに、私は吐き気を催した。
どうやって運転して帰ったのか、記憶が定かではない。
ガレージに車を停めた後も、あの光景が逃れられない罰のように、脳内で何度も再生され続けた。
涙で視界が歪む。
私たちの結婚は、一体何だったの?
私の中にいるこの子は——彼にとって何の意味があったの?
その時、腹部を鋭い激痛が走った。
視線を落とすと、鮮血が太腿を伝い、シートを惨たらしい赤色に染め上げていた。
「何か食べないと」
晴貴の優しい声が、私を現実へと引き戻す。
私は顔を背け、彼を見ようとしなかった。
「千佐……」
彼の声はさらに甘く、機嫌を取るような響きを帯びる。
「少しだけでいいんだ、ね? 愛しい人」
そう言って彼は身を乗り出し、私の額に口づけをした。
ほんの数時間前、その唇は別の女を貪っていたのだ。
晴貴が姫子にキスをする光景がフラッシュバックし、胃袋が雑巾のように絞り上げられる。
私は彼を突き飛ばし、ベッドの端で身を屈めて嘔吐(えず)いた。胆汁の焼けるような感覚だけで、吐き出すものは何もなかった。
晴貴は私の髪を後ろに束ね、濡れタオルで口元を拭ってくれた。
顔を上げると、彼は心配でたまらないといった表情で、額には汗さえ滲ませている。
こんなにも細やかに世話を焼き、こんなにも妻を案じているように見えるこの男が——。
「晴貴」
私の声は枯れていた。
「どこにいたの? 私が……あの子を失う前」
彼は一瞬、虚を突かれたように硬直した。
私は深く息を吸い込み、爪が掌に食い込むほど拳を握りしめた。
ある一つの思いが、頭の中で繰り返される。
もし彼が本当のことを言えば、もう一度だけチャンスを与えよう。
これが最後の、たった一度のチャンス。
その時、彼のスマホが鳴った。
彼は画面を一瞥すると、会社で緊急事態が起きたのだと何か呟いた。
次の瞬間にはもう立ち上がり、上着を掴んで病室を出て行こうとしている。
私は静かに瞳を閉じた。
懺悔など、必要ない。
今の時間は、姫子の検診予約の時間と完全に一致していた。
彼が去って間もなく、私のスマホが震えた。
姫子からのメッセージだ。
添付された動画の中で、晴貴は彼女の前に跪き、少し膨らんだ下腹部に愛おしそうに口づけを落としていた。
彼女はそんな彼を見下ろし、あからさまな勝利の笑みを浮かべている。
胸が締め付けられ、心は氷のように冷たく重くなった。
私は兄の寛貴に電話をかけた。
「寛貴、頼みがあるの。合併症に見せかけた医療事故を仕組んでほしい」
電話を切ると、私は強引に退院の手続きを進めた。
家に戻り、ベビールームへと足を踏み入れる。
息子を迎えるために、二人でペンキを塗った部屋。
厳選した小さな服が、綺麗に畳まれて並んでいる。私は小熊の耳がついたロンパースを撫でた。私たちが彼のために買った、最初の服。
すべてを暖炉のそばへ運び出す頃には、視界は涙で滲んでいた。
私は一着ずつ、それらを火の中へと放り込んだ。
柔らかなコットンが熱に縮れて黒ずみ、小さなボタンが溶けていく。
私たちが決して手にすることのなかった命の痕跡を、炎が一つ残らず食らい尽くしていく。
泣き声は上げなかった。
ただ、涙だけが無音で流れ落ちていた。
すべてを終えると、私は晴貴の書斎へ向かった。
金庫を開け、彼から贈られたすべての宝石をそこへ放り込む。ピンクダイヤモンド、特注のブレスレット、誕生日に彼が私の首にかけてくれたネックレス。
私はそれらすべてを置いていく。
それらは、彼を信じていた頃の私の持ち物だ。
今ここに立ち、自分の世界が灰になるのを直視しているのは、もうあの頃の女ではない。
スマホが再び震えた。
寛貴からのメッセージだ。
『手術は確定した。三日後に行う。手はずはすべて整っている』
