第5章

優子視点

三日後の午後。私は届いたばかりのDNA鑑定結果を手に、居間のソファに座り込んでいた。

純一は仕事に出ており、絵麻はベビーベッドで安らかな寝息を立てている。家の中は死んだように静まり返り、私の激しい動悸だけが響いていた。

震える手で封筒を開ける。指先に力が入らない。

そこに記された白黒の文字が、刃物のように私の心臓を突き刺した。

「DNA型鑑定の結果、被検者男性・三井純一と被検者女児・三井絵麻との間に生物学的父子関係は認められない。父権肯定確率は0.0001%未満である」

報告書が手から滑り落ち、床に散らばった。

「嘘……嘘よ……そんな……」

私は獣のような嗚咽を漏らし、ソファに崩れ落ちた。

絵麻は純一の子じゃない。だとしたら……健吾の子だ。

私は慌てて記憶を遡った。絵麻はまだ生後五ヶ月。つまり、あの子を身籠ったのは一年以上前ということになる。当時の私は体の異変を感じていた。朝起きるとひどく疲れ、気分が悪かったことを覚えている。妊娠の初期症状だと思っていたけれど……。

今ならわかる。薬を盛られ、凌辱されるようになったのはその頃からだった。私の大切な娘が……レイプによってできた子だったなんて。

「あああぁぁぁ――ッ!」

堰を切ったように涙が溢れ出し、私は叫ばずにはいられなかった。

二年間の結婚生活は偽りだった。夫はゲイで、子供は敵の血を引いている……私の人生すべてが、巨大な嘘で塗り固められていたのだ!

私の泣き声で目を覚ました絵麻が、つられて泣き出した。私はあの子を抱き上げ、罪のない小さな顔を見つめた。心が張り裂けそうだった。

「ごめんね……ごめんね、赤ちゃん……」私は泣きながら謝った。「お母さんが悪いの……ごめんなさい……」

しかし、胸の奥で怒りの炎が燃え上がり、理性を焼き尽くそうとしていた。

いや、このまま泣き寝入りするわけにはいかない。実の父親が誰であろうと、絵麻は私の娘だ。

こんなふざけた茶番劇は、終わらせなければならない。

午後七時。絵麻を二階の子供部屋で寝かせた後、私は一人、居間に座っていた。

目の前のテーブルには、DNA鑑定書、病院での録音データ、そして見つけ出した隠しカメラが並べられている。だが、これだけでは不十分だ。もっと決定的な証拠が必要だった。

純一はもうすぐ帰ってくる。急がなければ。

私は音を立てないように純一の書斎へと向かった。彼はいつも重要な書類をそこに鍵をかけて保管している。何か役に立つものがあるかもしれない。

机の引き出しには鍵がかかっていたが、隠し場所は知っていた。開けると、銀行の取引明細書や契約書……そして『保険金受取人指定書』が出てきた。

心臓が早鐘を打つ。その書類によると、私に万が一のことがあった場合、保険金の受取人はすべて純一になっていた。金額は莫大だ。彼と直樹が一生遊んで暮らせるほどの額だった。

別の書類を見て、私の血が凍りついた。「離婚協議書」だ。

そこには、私が慰謝料なしで家を出ること、絵麻の親権を放棄すること、さらには私の「精神状態が不安定であり、育児に適さない」という条項まで盛り込まれていた。

最初から、何もかも計画通りだったのだ。

私は携帯電話でそれらの書類を撮影した。だが、元の場所に戻そうとしたその時、玄関で鍵の回る音がした。

純一が帰ってきた。

慌てて片付けようとしたが、間に合わなかった。

「優子? 俺の書斎で何をしているんだ?」

戸口から純一の声がした。振り返ると、彼が立っていた。その表情はすでに疑念に満ちている。

「えっと……メモ帳を探していたの」私は必死に平静を装った。

純一の視線が開いたままの引き出しに注がれ、顔色が一変した。「俺の物を勝手に見たのか?」

「純一、話があるの」私は携帯電話を強く握りしめ、深呼吸をした。

「話って?」純一は書斎に入り、背後のドアを閉めた。

「絵麻があなたの子じゃないことについて。それから、ライブ配信のことも」私は一気にまくし立てた。「全部知ってるのよ」

純一の顔から血の気が引いた。だが、すぐに苦痛に満ちた表情を作り出した。「優子、説明させてくれ……俺のせいじゃないんだ」

「あなたのせいじゃない?」私は信じられなかった。「じゃあ誰のせいだっていうの?」

「健吾だ!」純一は突然取り乱したように叫んだ。「あいつに脅されたんだ! 協力しなければ仕事を奪う、俺のすべてを破壊してやると言われて……」

私は冷ややかな目で彼を見つめた。「だから私を売ったの?」

「どうしようもなかったんだ!」純一の目に涙が浮かぶ。「優子、信じてくれ。俺も被害者なんだ! 健吾が君の美しさに目をつけ、自分のものにしたいと言い出した。地位を利用して脅迫してきたんだ。断ればクビにして、この業界で二度と働けなくしてやるって」

彼は喋りながら距離を詰めてきた。「本当に選択肢がなかったんだ、優子。仕事を失いたくなかったし、君を失いたくなかった……だから、仕方なく……」

「だから私に薬を盛って、見知らぬ男にレイプさせたっていうの?」私は数歩後ずさりした。「純一、そんなふざけた言い訳、私が信じるとでも思ってるの?」

「言い訳なんかじゃない!」純一は演技を続けた。「健吾が君にあんなことをするのを見るたび、俺の心は血を流していた。でも逆らう勇気がなかったんだ……あいつの権力は強すぎて……」

その見え透いた演技を見ていると、吐き気がこみ上げてきた。

「もういいわ、純一」私は携帯電話を取り出した。「証拠はあるの」

私は病院での録音データを再生した。「奥さんは本当に何も知らないのか?」「ああ、ただのバカな女さ。優しくしておけば何でも信じ込む」

自分の声を聞き、純一の顔はさらに歪んだ。それでも彼は嘘を重ねようとする。「優子、これは……これは本物じゃない……」

「そうかしら?」私は鼻で笑った。「じゃあ、直樹って誰? どうして彼があなたを『純一』なんて呼ぶの?」

「彼は……ただの同僚だよ、たぶん……」

「たぶん何? あなたの愛人?」私は言葉を遮った。「純一、私見たのよ。あなたたちがキスしているところを。もっと詳しく説明してあげましょうか?」

純一の弁解がぴたりと止まった。

「それから、これ」私は保険書類の写真を見せた。「私を受取人じゃなく、被保険者にしているわね。私が死ねば、あなたに巨額の保険金が入る。それにこの離婚協議書――最初から私を捨てるつもりだったんでしょ?」

「俺のプライベートな書類を漁ったのか!」純一が怒鳴った。

「ええ、漁ったわ」私は彼を真っ直ぐに見据えた。「ライブ配信のことも知ってる。私の体を使って金を稼いでいたことも、その金を健吾には一銭も渡さず、すべて自分の口座に入れていたこともね」

純一の顔色はますます蒼白になっていく。

「だから純一、もう演技はやめて」私は冷たく言い放った。「本当のことを話しなさい」

長い沈黙の後、純一が突然笑い出した。

その笑い声に鳥肌が立った。冷酷で、残忍で、私が知っている優しい夫とは似ても似つかないものだった。

「全部知ってるなら……」

彼はゆっくりと言った。その声からは優しさが完全に消え失せていた。

「もう、猫を被る必要はないな」

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