第5章
【恵子視点】
最後のしがらみを断ち切る必要があった。もう一度、自分の呼吸を取り戻すために。
私はレストランで高橋大輔と会っていた。彼はかつてのギャラリーのパートナーであり、今でも私の芸術を信じてくれている唯一の人物だった。
「恵子、君の新たな門出に乾杯しよう」大輔は温かい笑みを浮かべ、なめらかな革張りのバインダーをテーブル越しに滑らせた。
ペンを手に取る。ここ数週間で初めて、胸のつかえが取れたような気がした。
だが、乾杯のためにグラスを掲げた瞬間、レストランの最も薄暗い隅の席へと視線が引き寄せられた。
全身の血が、一瞬にして凍りついた。
健太だった。
彼は理奈と...
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