第4章

森田理恵視点

「あのクソ野郎! よくもまあ、理恵にあんなことができるわね! あれだけ一緒に頑張ってきたっていうのに!」

明美はワイングラスを叩きつけるように置いた。割れなかったのが不思議なくらいだ。彼女の髪は刻一刻と乱れていき、アルコールのせいで頬は赤く染まっている。

「十年以上もよ、理恵! あんたはあいつが何者でもなかった頃から一緒にいたじゃない。大きな夢と空っぽのポケットしかなかった、ただの孤児だった頃から!」

周りの客がこちらを見始めている。いつもの明美じゃない。普段の彼女はもっと落ち着いていて、自分を律しているのに。

「明美、声が大きいわ――」

「知ったこっちゃないわよ!」彼女は鬱陶しそうに手を振る。「あいつは臆病者よ。自分を無条件に愛してくれた女より、金を選んだ自己中なクソ野郎だわ!」

まるで最終弁論でもしているかのように、人差し指を宙に突きつける。

「それにあの咲良って女? 親の小切手があれば何でも手に入ると思ってる、ただの甘やかされたお姫様なだけじゃない!」

私はテーブルの向こうに手を伸ばし、彼女をなだめようとしたが、もう勢いがついてしまっている。

「でもね、一番腹が立つのは誰だと思う? あんたよ!」

その指が私に向けられ、思わず身をすくめてしまう。

「あんたはまだあいつの言い訳をしてる! 恋に病んだ十代の少女みたいに、あいつが泣きついて戻ってくるのを期待してる!」

「そんなこと――」

「そうよ!」彼女の瞳は燃えている。「あんたは優秀なのよ、理恵。S大学医学部で博士号まで取って。数十億円規模の会社を築く手助けもした。それなのに、とっくに次へ進んだ男を待ち続けて、自分をすり減らしてる!」

一つ一つの言葉が、平手打ちのように突き刺さる。彼女の言う通りだからだ。何もかも。

「なんでまだあそこにいるの? なんであいつがお姫様とよろしくやってる間、あんたは完璧な奥様を演じ続けてるのよ?」

彼女はふらつきながら立ち上がり、テーブルに手をついて体を支える。

「あんたがどうすべきだったか分かる? 何年も前に、私と一緒に来るべきだったのよ!」

彼女は両腕を大きく広げ、危うくワインボトルを倒しそうになる。

「キャリアよ、理恵! 大事なのはそれよ! 私を見て。私は医療グループの一部門である支社を率いている。それなのにあんたは? あの空っぽの家で座って、愛情の残りかすを待ってるだけじゃない!」

アルコールが、彼女のいつもの外面をすべて剥ぎ取ってしまった。これが素の明美。そして、その言葉が真実だからこそ、一つ一つが深く突き刺さる。

「明美、お願い。座って、酔ってるわ」私は水の入ったグラスを彼女の方へ滑らせる。「説教と酒を飲みに来ただけなんじゃないかと思い始めてるわ」

まくし立てていた彼女がぴたりと止まり、私を瞬きしながら見つめる。そして、突然疲れ果てたように椅子にどさりと座り込んだ。

「クソッ」こめかみを揉むと、髪が顔にかかる。「ごめん、理恵。そんなつもりじゃ……。ただ、あいつらに腹が立って。二人共にね」

声は柔らかくなったが、その奥にはまだ怒りの震えが残っている。

彼女は水を取り、深く喉を潤す。その瞳からアルコールの靄が晴れていく。

「それで、あなたはどうする? まさか、まだあいつを待つつもりだなんて言わないでよね」

私はしばらくの間、ただ座っていた。無意識に手が、自分のお腹へと伸びる。赤ちゃん。裕也は、この子のことさえ知らない。

「彼とは別れる。ここを出ていく。この子を連れて、どこか新しい場所で始めるわ」

「やっとよ! やっとまともなこと言ったじゃない!」

まるで私が宝くじにでも当たったかのように、明美の目が輝く。

「私のところで働きなさいよ、理恵。西海岸の事業拡大もあと二ヶ月で終わる。一緒にE国へ行きましょう。この泥沼から、あなたを連れ出してあげる」

「私のために、そんなことしてくれるの?」

「当たり前でしょ。あなたは優秀だし、E国はあなたみたいな革新的な人材を必要としてる。それに……」彼女はテーブル越しに手を伸ばし、私の手を握りしめる。「あなたは小嶋裕也から、できるだけ遠くに離れる必要があるのよ」

私はオレンジジュースを一口飲む。涙で視界が滲む。ここ数ヶ月で初めて、希望のようなものを感じていた。

「ありがとう、明美。本当に。あなたがいなかったら、どうしたらいいか分からなかったわ」

「友達って、そういうものでしょ。さあ、こんな憂鬱な場所から出て、買い物に行きましょ。E国でシングルマザーになるなら、準備をしないとね」

外に出ると、夜の空気が肌を打つ。Ⅴ市はテクノロジーマネーで煌めいているが、今は昼間の狂騒が嘘のように、静かに感じられた。

「あ、見て、赤ちゃん用品店がまだ開いてる! 入りましょう」

「明美、まだ早すぎるわ――」

「馬鹿言わないで! 準備に早すぎるなんてことないわよ」

彼女は私の腕を掴み、明るく照らされた店の中へと引っ張っていく。

店内は暖かい照明と小さな服で満たされていて、すべてが非現実的に感じられた。この赤ちゃんは、本物なんだ。今、この瞬間も私の中で育っている。

「赤ちゃん用品のお買い物は初めてでいらっしゃいますか?」店員が人懐っこい笑顔で尋ねてくる。

「はい……はい、そうです」

「あのロンパースのセットと、そこのおくるみ、それから……」明美は自分がこれから母親になるかのように、目を輝かせながら店内のあちこちの商品を指さしていった。

その熱意を見ていると、胸の内で何かが変わっていくのを感じた。

これが希望というものなのかもしれない。彼がいなくても、私にもできるのかもしれない。

店を出る頃には、私は小さな服と柔らかいおくるみでいっぱいの買い物袋を三つも抱えていた。明美がすべて支払うと言って聞かなかったのだ。

「あなたの未来への投資だと思って」彼女はにやりと笑って言った。

鍵を使って玄関のドアを開けたのは、もう深夜を過ぎていた。居間の明かりがまだついていて、心臓が突然、激しく鼓動を打った。

裕也がソファに座り、両手を組んでテーブルをじっと見つめている。今朝と同じ高価なスーツを着ているが、疲れ切っているように見えた。

「帰ってたのね」

私の声は、落ち着いていて、感情が乗っていなかった。買い物袋をもう一つのソファに置き、彼の背後に歩み寄る。

その緊張した肩に手を置き、優しくマッサージを始めた。もう何年も続けてきた、私たちの習慣。これが、最後になるのかもしれない。

「どうして今夜は家に? あの女、あなたにしがみついてこなかったの? 今日、私がさんざん言ってやったから、相当怒ってるでしょうに」

「会社に急用ができたって言い訳して、早く帰ってきたんだ」

彼の声は疲れていて、ソファの背もたれに頭を預ける。左手がこめかみに伸び、私が肩の凝りをほぐすのに任せている。

「ところで、どこに行ってたんだ? もう夜中だぞ」

私の手が止まった。

彼の左手を見つめていた。

「指輪は?」

その問いは、死刑宣告のように空中に漂った。

「彼女が嫌がるんだ。外してくれって。一時的なものだよ、これが……終わるまでは」彼は言葉を終えなかった。

「何が終わるまで?」

「これが終わるまでだ。寝室のテーブルに置いてある」

あのシンプルな銀の指輪を思う。狭いアパートに住んでいた頃、彼が一ヶ月分の給料で買ってくれた指輪。あの夜、お互いの指にはめた時、二人とも顔を赤らめていた。

私だけを愛すると、彼は約束した。二人で大きな世界を創り上げ、私が彼の傍らに立つと。

なのに今、私たちが共に築き上げたすべての象徴である、あの指輪さえも。彼女に頼まれたからと、彼は外してしまった。

涙が目に溢れ、私は身をかがめて彼の背後から腕を回し、肩に顔をうずめた。

「裕也……もし私がいつかいなくなったら。もう二度と会えなくなったら……」

声が震える。

「私のこと、恋しく思う? 少しでも?」

私の感触の下で、彼の体が硬直するのが分かった。居間全体が、死のような静寂に包まれる。

その時、突然、裕也が立ち上がり、くるりと振り返った。彼は一言も発しない。

ただ、私をその腕の中にさらい上げた。

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