第29章

カラフルなネオンがちかちかと瞬く中、男の顔は闇に半分呑まれていた。読めない表情が、いっそう強引な侵略性を帯びてゆく。

「……俺に、行けって?」

桑野夜子は浦原淳宏の身体を支えて立たせると、浅木辰也を一度も見ないまま言った。

「離婚の手続き、早めてください。私は、もうこのみじめな結婚を続けたくありません」

言い終えて、夜子はふっと視線を上げる。凪いだ冷たい瞳は、焦点が合っていないみたいにどこか遠くを見ていた。

「離婚したら、私は姿を消します。浅木グループに不利な噂を流すこともしない。あなたが『今ならいい』と思ったタイミングで、離婚を公表してください」

女の決意を前に、浅木辰也の瞳孔...

ログインして続きを読む