第63章

浅木辰也の顔色は最悪だった。必死に堪えているからこそ、その場で爆発しなかっただけ。口を開いた声は、氷を噛んだみたいに冷たい。

「……あいつは、誰だ」

桑野夜子は大きく息を吸い、拳を握りしめる。声が震えないよう、平らに整えて言った。

「あなたも知ってる人」

「浦原淳宏か」

浅木辰也の表情がいっそう険しくなる。薄い唇が一直線に結ばれ、琥珀色の瞳の奥に沈んだ影が濃くなっていった。

桑野夜子は視線を落とし、小さく頷く。

「……うん」

その肯定が落ちた瞬間、浅木辰也の澄んだ声に、抑えきれない怒りが滲んだ。

「前に言っただろ。お前たちは、何も――」

「それは前の話」

桑野夜子は淡々...

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