第4章

 アパートはすぐに買い手がついた。

 荷造りのために戻った私は、ある箱を見つけた。

 蓮からの長年の贈り物が入った箱だ。

 カルティエのバロンブルー。17歳の誕生日に、彼が自ら私の手首につけてくれたものだ。

「手首がすごく細いな」

 彼はそう言った。

「君にぴったりだ」

私はそれを一度も外さなかった。寝るときも、シャワーを浴びるときも。だがある日、学校の廊下でエリが袖をまくり上げ、まったく同じ時計を見せびらかすように私に微笑んだ。

 『S & R』と表紙に刻印された革製のポラロイドアルバム。前半は私たちが成長していく写真だった。やがて、第三の人物が現れ始めた――最初は背景にぼんやりと、次は蓮の隣に。次第に蓮とエリが主役になり、私はどんどん端へと追いやられ、まるでフレームから完全にこぼれ落ちてしまいそうだった。

A .P.C.のカシミヤコート。その冬、震えていた私に気づいた彼が、翌日買ってきて肩にかけてくれたものだ。私はそれを約束のように、大切にクローゼットにしまっていた。それがある日、エリのインスタグラムに載っていた――彼女がそれを着て自撮りしており、キャプションには『彼が、これが一番暖かいって』と書かれていた。

 私はアルバムを一枚ずつ引き裂いた。

 時計はゴミ箱に投げ捨てた。

 コートはずたずたに切り刻んだ。

 かけがえのないものだと思っていたものは、いつでも複製可能だったのだ。私だけのものだと思っていたものは、誰でもその一片を手に入れられるものだった。

 その間ずっと、私は特別な存在なんかじゃなかった。

 ただの、捨てるのが面倒な古道具に過ぎなかったのだ。

 私はフライトを予約した。マンションでの最後の夜。

 午前2時、スマホの振動で目が覚めた。

 蓮だ。

 数秒間画面を見つめたが、結局電話に出た。

「……紫苑」

 彼の声は低く、消耗しきっていた。

「しばらく考えていたんだ。言わなきゃいけないことが……ある」

 私はスマホを握りしめ、息を飲んだ。

 ついに認めるつもりなのか? あのいじめが嘘だったこと、私を利用していたこと、ずっと嘘をつき続けていたことを?

「エリが入院した」

「……え?」

「急性ストレス障害だ」

 彼の口調が切迫したものに変わった。

「医者はPTSDになるかもしれないと言ってる。あいつ、今日気絶するまで泣き叫んでたんだ。目が覚める前に救急搬送しなきゃならなかった」

 私は彼が続けるのを待った。

「全部、学校でのあの噂のせいだ。あいつを泥棒猫呼ばわりして、俺たちの仲を引き裂いたとか、金目当てだとか――そんなことを聞かされて、あいつがどれだけ打ちのめされているかわかるか?」

「それに昨日だ」

 彼の声にあからさまな非難の色が混じった。

「あいつは俺をかばおうとして割って入ったんだぞ。頭が割れて血が出た。お前はただ突っ立って見てただけだ。一言も発さずに。それでいい気味だと思ったのか?」

「私は何もしてない」

「それが問題なんだよ! お前は何もしなかった!」

 彼は突然声を張り上げた。

「お前なら誰よりもよくわかってるはずだろ。なんでただ傍観してたんだ?」

 もちろんわかっている。彼のおかげで。

「紫苑、誤解を解いてくれ」

 彼は自分を必死に抑え込むように声を落とした。

「声明を出すだけでいい。俺たちが付き合っていた事実はないって。エリは泥棒猫じゃないってな。簡単なことだろ」

「なんで私が彼女のためにそんなことを?」

「元はと言えばお前のせいだからだ!」

 彼の声が鋭くなった。

「お前がいつも俺のそばにいたから、学校中が俺たちをカップルだと思い込んだんだ。そこにエリが現れりゃ、そりゃみんな噂するだろ。あいつに借りがあると思わないのか?」

 私はベッドのヘッドボードに背を預けた。急にどっと疲れが押し寄せた。

「借りなんて、一つもないわ」

 彼は数秒黙り込んだ。

「紫苑、俺にこんなことさせないでくれ」

 彼の声が冷たくなる。

「協力しないなら、お前の転校先に一緒に行くなんて期待するなよ。お前が逃げたのはエリへの嫉妬からだって、みんなに言いふらしてやる。遠くに逃げれば逃げるほど、お前が後ろめたいと思ってる証拠になるんだぞ」

 笑い出しそうになった。

 彼はまだ、自分が私に恩を売っているつもりでいる。私が何も知らないと思っている。

「好きにすればいいわ」

「お前――」

「好きにすればいいって言ったの」

 私は電話を切った。着信拒否。連絡先を削除。

 外は白み始めていた。ベッドに横たわり、天井を見つめる。

 悲しみはない。後悔もない。

 ただ、この13年間が長い病気で、今日ついに完治したような気分だった。

 翌日の午後、私はロンドン行きの飛行機に乗った。

 母さんの友人が迎えに来てくれることになっていた。

 到着ロビーを出ると、すぐに彼女が見つかった。

 40代、鋭い存在感、仕立ての良いトレンチコート。人混みの中でも彼女は目立っていた。

 隣には男の子が立っていた。背が高く、痩せ型で、私より一つか二つ年上に見える。

 女性が私に手を振った。

「紫苑? 晴子よ。あなたのお母さんの友達の」

 晴子五十嵐晴子。

 あの『教訓話』に出てくる女性。

 挨拶しようと礼儀正しく歩み寄る私の視界の隅に、その男の子が映った。

 彼は私を見ていた。その視線には何か奇妙なものがあった。初対面の他人を見るよそよそしさではなく――まるで……何かを確認しているような。

「こちらは息子の冬夜」

 晴子が微笑んで紹介した。

「五十嵐冬夜」

 五十嵐冬夜。

 その名前には聞き覚えがあった。とても懐かしい響き。でも、どこで聞いたのか思い出せない。

 彼は私に頷き、口の端をわずかに持ち上げた。

「久しぶりだね、紫苑」

 私たち、会ったことがあったっけ?

 尋ねようとした瞬間、私の携帯が鳴った。

 非通知設定。

 ためらったが、電話に出た。

 蓮の声だ。パニックを必死に隠そうとしている。

「紫苑? 一体どこの学校に転校したんだ? 親父に調べさせたら、お前の名前は記録にないって言われたぞ! どこにいるんだ?」

 私が答える前に、晴子が手からスマホをひょいと取り上げた。

 彼女はそれを掲げ、何気ない口調で言った。

「あら、蓮。紫苑は私と一緒にいるわよ。私の声、覚えているわよね」

 向こう側が沈黙した。

 やがて、狂気じみた蓮の声が響いた。

「紫苑! なんで俺の元継母と一緒にいるんだよ? 本気で俺を裏切るつもりか?」

 晴子は電話を切った。そして小さな笑みを浮かべて私にスマホを返した。

「あの子、相変わらず癇癪持ちね」

 私は凍りついた。

 元継母。

 晴子が蓮の元継母だったとしたら、つまり――

 私は隣に立つ背の高い彼を振り返った。

 五十嵐冬夜。

 彼はかつて、蓮の義理の兄弟だった人だ。

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