第2章
私の魂はこの場所に縛り付けられ、立ち去ることすら叶わない。ただ、彼らが優樹の誕生日を祝う光景を、指をくわえて見つめているだけだった。
「さあ」と、彼女は甘やかな声で促す。
「あの子一人のせいで、せっかくの好機嫌を台無しにすることはないわ」
美紀子がケーキの蝋燭に火を灯す。淡いピンク色のクリームで彩られたケーキは、揺らめく光の中でひときわ繊細な輝きを放っていた。
「さあ、私たち家族だけの、お祝いの時間よ」
宗一郎、美紀子、直人が優樹を囲み、バースデーソングを歌い始める。
その歌声は、どこまでも柔らかく、慈愛に満ちている。私には一度たりとも向けられたことのない、温かな響き。
優樹は両手を合わせ、瞳を閉じて願いを込める。蝋燭の灯火に照らされたその横顔は、まるで天使のように清らかだった。
やがて優樹が瞳を開き、大きく息を吸い込んで、すべての火を吹き消す。
わっと沸き起こる拍手と歓声。
私は、自分の誕生日を思い出す。話題にしようとするたび、宗一郎は重要な会議があると言い、美紀子はチャリティー晩餐会だと言い、直人は残業だと言った。
「もう成人したんだ。誕生日なんて祝う年でもないだろう」
かつて、宗一郎はそう言い放った。
だが、優樹は違う。
彼女だけは、家族全員がすべてを投げ打ち、一堂に会するだけの価値がある存在なのだ。
ケーキを食べ終えると、宗一郎は珍しく公務を忘れ、自ら優樹のプレゼント開封を手伝い始めた。
「どれも、お前のために選び抜いたものだ」
その声には、私には決して向けられることのなかった優しさが滲んでいる。
美紀子が美しい装飾の施された箱を優樹に手渡した。
「開けてごらんなさい」
優樹が包みを開くと、その瞳がぱっと輝いた。
「シャネルのツイードジャケット! お母さん、どうして私がこれずっと欲しかったって分かったの?」
「羽織ってみなさい」美紀子が満足げに頷く。
「お父様が用意したそのスカートに、ちょうど合うはずよ」
優樹が立ち上がり、くるりと回ってみせる。ジャケットは照明の下で柔らかな光沢を放っていた。
「完璧ね」美紀子が言う。
優樹はテーブルの上に積み上げられたプレゼントの山を見て、少し困ったような表情を浮かべた。
「でも、もうクローゼットに入りきらないよ……」
美紀子は事もなげに手を振った。
「友佳の部屋のを使えばいいわ。あの子なんて毎日同じような仕事着を着回しているだけなんだから、あんな大きなクローゼットは必要ないでしょう」
宗一郎も、もっともだと頷いている。
直人はすでに、甲斐甲斐しく優樹のためにライチの皮を剥いていた。果肉を小皿に取り分け、丁寧に種まで取り除いてやっている。
私は、その光景をただ見つめていた。
ふと、頬を伝う温かい滴を感じる。――ああ、魂でも涙を流すことができるのか。
優樹はライチを一口かじると、突然小さく溜息をついた。
「お姉ちゃん、まだ連絡もないし、メッセージも既読にならない……」彼女の声はどこか弱々しい。
「あの人がいないと、なんだか変な感じ」
宗一郎が不快そうに手を払う。
「放っておけ。また気を引こうとしてるだけだ。結婚も近いというのに、いつまでも幼稚な奴だ」
美紀子も唇を歪める。
「たかが賞一つじゃないの、毎年あるような……。よりによって今日、私たちに当てつけだなんて!」
たかが、賞一つ。
私が三年かけて準備した家族栄誉勲章は、彼らにとってただのガラクタに過ぎないのだ。
優樹はうつむき、まるでうっかり口を滑らせたかのように振る舞う。
「そんな言い方、お姉ちゃんが聞いたら傷つくよ。あの賞のために、審査員全員に頭を下げる勢いだったのに……あ、これ言っちゃダメだった?」
顔を上げた彼女の瞳に、一瞬だけ勝ち誇った色が走る。
優樹は昔から賢かった。両親の前でどう振る舞えば、自分が可哀想に見えるかを熟知しているのだ。
成績で私に勝てたことなど一度もないくせに。
私が一位を取るたび、優樹は泣きながら両親に訴えた。私がわざとノートを貸してくれなかったせいで失敗したのだと。
実際には、彼女がノートを借りに来たことなど一度もない。
だが、宗一郎は私の部屋に怒鳴り込んでくるのだ。
「姉として、妹を助けるのは当然だろう! それほどの利己主義で、よく姉が務まるな!」
「でも、あの子は一度も——」
「言い訳をするな!」彼は私の言葉を遮る。
「優樹があんなに泣いているのに、まだ口答えをするのか!」
そのたびに私は弁解したが、誰一人として信じてはくれなかった。
かつて私は、いつか私を心から愛してくれる人が現れると夢見ていた。
私だけを特別に想い、信じ、守ってくれる人が。そうして英介が現れた。
婚約して最初の数ヶ月、彼は確かに優しかった。
だがやがて、彼の視線もまた、ゆっくりと優樹へと移っていったのだ。
午前一時、宴はまだ続いている。
執事が一九八二年のラフィットと、優樹の大好物であるトリュフチョコレートを運んできた。
宗一郎が自ら優樹のためにシャンパンを注ぐ。
「今日でお前も成人だ。これからはこういう大人の味も楽しめるな」
直人が念入りにチョコレートを選んでやる。彼女はその一粒を口に放り込み、ハムスターのように頬を膨らませた。
「ゆっくり食べなよ」直人が笑う。
「誰も取ったりしないから」
優樹はチョコを飲み込むと、興奮した様子で宣言した。
「そうだ! パパ、今日ついに、家族経営の会社でインターンすることを許してくれたの!」
美紀子が手を叩く。
「本当? 素晴らしいわ!」
「当然だ」宗一郎が言う。
「お前は私の娘だ。会社には初めからお前の席が用意されている」
私が成人した年、会社でインターンがしたいと申し出た時のことを思い出す。
宗一郎は、私の方を見ようともしなかった。
「自力で這い上がれ」彼は言った。
「家族が道を敷いてくれるなどと期待するな」
彼らを見ていると、まるで自分とは無関係な芝居を見ているような気分になる。
ふと、美紀子が何かを思い出したようだ。
彼女は残ったケーキを空の皿に移し替えた。すでに形は崩れ、クリームは無惨に溶けている。
彼女は直人に言った。
「友佳に残しておいてあげましょう。あの子が癇癪を終えて戻ってきたら食べられるようにね。私たちが優樹のことしか考えていないなんて言われないように」
直人は頷き、その皿を手に取ろうとする。
私は、その無惨に崩れたケーキを見つめる。心はもはや波立つことすらなかった。
その時、優樹がテーブルの上に残された一つのギフトボックスに気づいた。
「まだ開けてないプレゼントがある」彼女は最も精巧な造りのその箱を手に取る。
「綺麗な箱。ねえ、当ててみていい? きっとネックレスよね?」
彼女が蓋を開けた瞬間、悲鳴と共に箱を床に投げ捨てた。
「きゃあっ! 痛いっ——!」
