第53章 彼女に薬を塗る

佐伯薫は何か言いかけて、結局は力なく頷いた。そうして有川菜央の手を引き、外へ出ていく。

背を向けた瞬間、薫は振り返り、佑奈をじっと見据えた。

その瞳には、隠しようもない挑発が宿っている。

佑奈は唇をきゅっと結び、皆が去ったのを確かめると、床に散った水滴を一瞥しただけで踵を返した。

リビングへ戻った途端、二階の寝室からかすかな話し声が聞こえる。

「薫おばさん、がまんして。痛い? ふーふーしてあげる」

「痛くない、痛くないよ。おばさん全然平気。菜央ちゃんがケガしてないなら、それでいいの」

「ママ、ひどすぎ! なんでそんなことするの!」

最後に聞こえたのは、有川紘樹の声だった。

...

ログインして続きを読む