第320章

岩崎奈緒の眼差しが冷たくなった。

彼女はいわゆる祖父母と暮らしたことがなく、幼い頃に一度だけ、母に連れられてZ郡へ行ったことがあるだけだった。しかし、母が早くに亡くなったため、その記憶もすでに曖昧になっていた。

ただ、その一度のことだけははっきりと覚えている。二人の老人が箒を手に、彼女と母を殴りつけようとしたからだ。

当時、父は少しばかり金を稼いでいた。

林田美春は親孝行な性格で、お金を稼いだなら、いくらかは両親に渡すべきだと考えていた。なにより、岩崎雄大を育て上げたのは事実なのだから。

林田美春と弟の林田東の両親はとうに亡くなっていたため、姉弟の仲はそれなりに良かった。

しかし...

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