第332章

岩崎奈緒は、自分がその一言を口にしてから、車内の空気が急に息苦しくなったことに気づいた。

ただの冗談のつもりだった。

からかおうと思った矢先、藤原光司が尋ねてくるのが聞こえた。

「もし探すとしたら、どんな男がいいんだ?」

彼の声は清らかで、水が石を打つ音のようだった。

岩崎奈緒は再び呆然とした。藤原光司は次に「俺なんかどうだ?」とでも言うのではないかとさえ思った。

自分はどうかしている。藤原光司のような人が、わざわざ他人の浮気相手になろうとするはずがないのに。

その突拍子もない考えに、彼女は思わずうつむいて笑ってしまった。

「藤原社長、今のはただの冗談です」

藤原光司の目に...

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