第350章

「ワンワンッ!」

ユキが玄関で必死に尻尾を振っている。

岩崎奈緒の指先がぴたりと止まった。今夜も石川さんはドアを閉め忘れたらしい。

ユキは矢のように駆け寄ってくると、彼女の前で狂ったように転げ回り、媚びへつらうような仕草を見せた。まるで、もうあの部屋には戻されたくないと訴えているかのようだ。

岩崎奈緒はユキの鳴き声が石川さんを起こしてしまうのではないかと心配し、急いで庭からユキを連れ出した。

しかし、今夜のユキは格別に興奮しており、どうしてもあの部屋に入ろうとしない。

最近ずっと会っていなかったせいで興奮しているのだろうと思い、無理にでも引き入れようとしたその時、リビングの方から...

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