第415章

岩崎奈緒が藤原光司のキスを拒まなかったのは、ある種の諦念からだった。もっと親密な行為を何度も重ねてきた今、唇の純潔だけを守ろうとするのは、滑稽な自己満足に過ぎない。

十回という約束は彼女自身が受け入れたものだ。それが終わって初めて、藤原光司を拒絶する資格が生まれる。

それに、おそらくは谷口優奈のあの手の持論をしょっちゅう聞かされていたせいだろう。藤原光司のような完璧な人間を相手にするなら、彼がベッドの上で狂乱さえしなければ、キスをしたところで損をするのは自分ではない、と。

藤原光司の顔立ちは、そういった考えをいとも容易く抱かせる。特にキスをしている最中、目を開けてこの顔を見ると、どこか...

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