第30章

ドアの外。

篠原霧音は鍵を握った手を宙で止めた。力を入れすぎて、指先が白い。

薄暗い廊下で下唇をきつく噛みしめる。口の中に、鉄錆みたいな血の味が広がった。

他人の目には、もう自分は――こういう女になっている。

真実がどうであれ、離婚した女のそばに金のある男がいれば、泥は容赦なく浴びせられる。しかもそれは本人だけじゃない。周りの人間にまで飛び散る。

中では江口青がまだ言い返している。声は震えて、泣きそうだった。

篠原霧音は深く息を吸い、目の奥に溜まった湿り気を無理やり押し戻す。

今は、泣けない。

江口青を困らせるわけにはいかない。

気持ちを整え、何事もなかったような顔を作って...

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