第54章

今野安哉は、彼女の指先にべっとり付いた油を露骨に嫌そうに一瞥した。それでも手を伸ばし、彼女の短い小指を、きちんとした所作で引っかける。

「子どもっぽ」

そう言いながら、口元だけはつい緩んでいた。

そのとき、電話を終えた今野天がスマホを手に戻ってくる。

スーツの上着は脱いで腕に掛けてあり、黙っているだけで圧がある。近寄りがたい、よそ者を寄せつけない空気。

今野安哉がこっそり篠原霧音を見た。視線が言っている。頼むよ、霧音おばさん。

今野天は席に戻るなり、卓上の空気が変わったことを敏感に察した。

さっきまで露骨に不服そうだった息子が、今は目だけ妙にきらきらしている。

「どうした」今...

ログインして続きを読む