第63章

笠原灯が席を立った途端、その場の上っ面の和やかさは、あっけなく剥がれ落ちた。

清水恵は慌ただしく皆に別れを告げると、清水月の腕を引いてそのあとを追っていく。

篠原霧音は、まぶたひとつ動かさなかった。

手にしたウェットティッシュで、奈々の口元についたソースを丁寧に拭ってやる。指先はやさしく、ついさっきのひと騒動など、まるでなかったかのように。

「笠原灯とは、まだきれいに切れてないのか?」

椅子の背にもたれた今野天が、篠原霧音の淡々とした横顔を眺めながら口を開く。からかいなのか、探りなのか、その声音は判然としない。

篠原霧音は手を止めず、汚れたウェットティッシュをきちんと畳んでテーブ...

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