第2章
アパートの部屋の机に向かい、私は無理やり自分を落ち着かせた。
戻ってきてからというもの、頭の中はまるで洗い流されたかのように妙に冴えわたっていた。私は過去四年間の一切を思い返し、自分が一体どこで道を間違えたのかを正確に突き止めようとし始めた。
「どうして私は望を好きになったんだろう?」紙にそう書き出した。
答えはすぐに見つかった。「命の恩人」
四年前のあの交通事故――いや、正確にはもう三年前か。私はすべての記憶を失った。目を覚ましたとき、最初に見たのは望の整った顔で、彼が私を助けたのだと教えてくれた。
その瞬間から、私は彼を自分のヒーローにしたのだ。
でも、今になって考えてみると、あのときの望はあまりに落ち着き払っていて、あまりに……芝居がかっていた?
はっと立ち上がった。何かがおかしい。
危機的状況で人を救う本物のヒーローなら、緊張し、取り乱しているはずだ――どうしてあんなに冷静でいられたのだろう?それに、望の服は清潔できちんとしていて、事故現場から駆けつけた人間のようには到底見えなかった。
これを確かめなければ。
S市医療センターの診療情報管理室は静かで、ブラインドの隙間から差し込む陽光が床に模様を描いていた。
「すみませんが、看護師の碧さんはいますか?」私は受付で尋ねた。
「三階のナースステーションにおります」
私は急いでエレベーターに向かった。碧さんは、事故の後、私の面倒を見てくれた看護師だ。真実を知っている人がいるとすれば、彼女のはずだ。
「千鶴ちゃん?あらまあ、すごく綺麗になったわね!」碧さんは私を見るなり、声を上げた。
「碧さん、お聞きしたいことがあるんです」私は単刀直入に言った。「三年前、私を病院に運んできたのが誰か、覚えていますか?」
碧さんは眉をひそめた。「もちろん覚えてるわよ。どうしたの、急に?」
「お金持ちの男性でしたか?すごくイケメンな?」
「お金持ち?」碧さんは首を横に振った。「ううん、違うわ。あなたを運んできたのはお金持ちの男性じゃないと思うけど」
心臓がどきりと跳ねた。「じゃあ、誰だったんですか?」
「革ジャンを着て、タトゥーだらけの、不良っぽい子だったわ。見た目は怖そうだったけど、あなたを抱えて運んできたとき、その手は震えていたわよ」碧さんは思い出すように言った。「救急治療室の外でずっと待っていて、あなたが助かるとわかってから、ようやく帰っていったの」
息がほとんどできなかった。「その人の名前は?」
「木村正人くん。書類にサインするとき、手がひどく震えていたから、はっきり覚えてる」
木村正人。
望じゃない。
最初から、望じゃなかったんだ。
世界がぐるぐると回るのを感じた。
四年間。丸々四年間も、私は間違った人を愛していた。
大学近くのカフェは活気に満ちていた。午後のラッシュ時はいつも一番混み合う。
隅の席に望を見つけた。友人たちと談笑していて、機嫌が良さそうだ。
「望、二人きりで話がしたいの」
彼は私を見て一瞬ためらった後、友人たちに先に行くよう手を振った。「お前ら、先に行っててくれ」
「そんなに真剣な顔してどうしたんだ?」望は笑顔で尋ねた。「昨日はいきなりやり直したいなんて言うし、今日は……」
「望」私は彼の目をまっすぐ見つめた。驚くほど声は落ち着いていた。「どうして、私を助けたなんて嘘をついたの?」
望の笑顔が凍りついた。「……何?」
「三年前の交通事故。私を助けたのは、あなたじゃなかった」私は一言一言、はっきりと告げた。
望の顔が青ざめる。口を開いたが、声は出なかった。
「さっき病院に行ってきたの」私は続けた。「看護師の碧さんが本当のことを教えてくれた。病院に私を運んでくれたのは、革ジャンを着た不良っぽい人だった。あなたじゃない」
「千鶴、説明させてくれ……」望が必死に手を伸ばしてくるが、私は身を引いた。
「何を説明するの? 私を助けたふりをした理由? 私があなたをヒーローだと信じ込ませていた、その理由を?」
望の額に汗が滲み始めた。「俺は……ただ、お前に辛い記憶を思い出させたくなかったんだ。事故はお前にとってショックが大きかっただろうし、俺は怖かったんだ……」
「だから嘘をついたの?」私の声が上ずった。「私に、あなたに助けられたと思い込ませて、一生感謝させて、私を……」
「千鶴、お前のためを思ってやったんだ!」望は必死に弁解した。「俺は本気でお前のことが好きだったんだ、俺は……」
「好きだった?」思わず、乾いた笑いが漏れた。「本当に好きだったなら、どうして私たちの命がかかったとき、映美を選んだの?」
望は混乱した顔をした。「命がかかった状況って? 何の話をしてるんだ?」
彼の戸惑った表情を見て、私はふと、それが『未来』で起こったことなのだと気づいた。でも、もうそんなことはどうでもよかった。
「もういい」私は立ち上がった。「四年間よ、望。丸々四年間、私の恋は嘘の上に成り立っていたのよ」
「千鶴、そんなこと言うなよ……」
「今、知りたいことは一つだけ」私は彼を振り返った。「本当に私を助けてくれた人――その人は今、どこにいるの?」
望の表情が複雑なものになった。「知らない」
「本当に知らないんでしょうね」私はバッグを手に取った。「だって、私はその人を探し出すから」
陽が傾き、キャンパスの小道に並ぶプラタナスの葉が黄色く色づき始めていた。
私は一人で歩いていた。碧さんの言葉が頭の中で響いていた。――あなたを抱えて運んできたとき、その手は震えていたわよ……救急治療室の外でずっと待っていて、あなたが助かるとわかってから、ようやく帰っていったの。
それこそが、本物のヒーローの反応のはずだ。緊張し、心配し、恐れる。
それにひきかえ望は? 四年間、私の感謝と、献身と、ヒーローへの崇拝を享受してきたのだ。
真夜中、アパートの部屋で座っていた。ラップトップの画面が青い光を私の顔に落としている。ルームメイトはもう眠りについていたが、私は休むことができなかった。ようやく真実を知ってしまった今、休めるはずもなかった。
「木村正人」私は自分に囁きかけ、キーボードの上で指を走らせた。
検索結果が画面を埋め尽くした。木村正人という名前が多すぎたが、どれもピンとこない。もっと具体的な情報が必要だった。
「木村正人 S市地方 タトゥー バイク」
今度は、表示される結果が少なくなった。私はそれらを一つ一つ丹念にスクロールしていく。クリックするたびに心臓が高鳴った。
そして、見つけた。
革ジャンを着た青年が黒いハーレーにもたれかかっている、SNSのプロフィールだった。自己紹介は簡潔だった。『S市地方の短期大学、機械工学、21歳』
彼の写真をクリックしていくと、手が震えた。そこには、バイククラブの集まりらしき場所で、同じようにいかつくて不良っぽい友人たちと笑い合っている彼の姿があった。
「見つけた」と、私は息を吐いた。
記載されていた住所はS市地方の短期大学だった。投稿によると、彼はそこで多くの時間を過ごしているらしく、特に午後はよくいるようだった。
ラップトップを閉じ、ベッドに仰向けになって天井を見つめた。明日、彼を探しに行こう。ようやく、本当に私の命を救ってくれた人に会えるのだ。
木村正人を見つけ出して、ずっと伝えられなかった、彼が受けるべき感謝を伝えなければ。
そして何より、この本当に勇敢な人がどんな顔をしているのか、この目で見たい。
望が作り上げた偽りのヒーロー像ではなく、本物の、血の通った救い主を。
きっとこれが、私の新しい始まりの第一歩になるだろう。
