第4章
翌日、良也のスタジオにブラインドの隙間から陽光が差し込み、床に光と影の整然とした縞模様を描き出していた。私は戸口に立ち、深く息を吸い込む。
「本当に、この整理を手伝ってくれるの?」良也が写真の山から顔を上げ、その目に驚きの色が瞬いた。「こういうメンタルヘルスの写真って、ほとんどの人が重すぎるって言うんだけど」
「意味のあることだと思うから」私は中に足を踏み入れ、散らかった高価なカメラ機材を慎重に避けた。「人が内面の痛みに向き合う手助けをする……それって、大切なことだよ」
良也は苦笑いを浮かべた。「時々思うんだ。私が他人の痛みを撮るのは、自分自身の痛みを処理するためなんじゃないかって……」
彼はそこまでしか言わなかったけれど、続く言葉は分かっていた。「自分自身の闇と闘っているから」と。
「あなたが、それを理解しているからよ」私は彼が差し出す写真の束を受け取りながら言った。「闇を経験したことのある人にしか、他人の闇は本当には理解できない」
彼は、あの馴染みのある温かい眼差しで私を見つめた。元の時間軸で、私が彼に恋をしたのは、まさにその眼差しだった。
私は彼が写真を分類するのを手伝い始めた。一枚一枚が物語を語っていた。公園のベンチに座る孤独な老人、駅のホームに立つ虚ろな目をした若者、両手で顔を覆って泣いている中年女性……。
「これは特に心を打つわね」私は一枚のモノクロ写真を指差した。「光と影の対比が、すごく印象的」
「中心街で撮ったんだ」良也が私の方へ身を寄せた。「あの子、失業したばかりで、三時間もあそこに座ってた。慰めに行きたかったんだけど……」
「だけど、何?」
「だけど、私自身も慰めが必要だって気づいたんだ」
その時、それが目に入った。彼の机の隅に置かれた、薬局の名前が入った白い薬袋。中には一包化された処方薬が数日分入っている。私の心臓が、途端に激しく脈打ち始めた。
元の時間軸とまったく同じ……もう、手遅れなの?
「良也」私は声をできるだけ普段通りに保とうと努めた。「この薬……」
彼は袋を隠そうと、ほとんど飛びつくように手を伸ばした。「ただのビタミン剤だよ。最近ストレスが溜まってて、医師に勧められたんだ。薬局で買ったサプリだけどね」
嘘だ。それが抗不安症の薬だって、私は知っている。元の時間軸で、私が彼と一緒に精神科クリニックへ行ったから。あの処方薬を見たことがある。
でも、そんなことは言えない。彼の言葉を信じたふりをしなければ。
「ストレスって本当に馬鹿にできないものね」私は言った。「誰かに相談してみたらどう?」
「病院には行ってるよ」彼は袋をしまい、さらに写真を取り上げた。「ストレスからくる軽い症状があるって。大したことないんだけど……」
でも、それは悪化していく。生きていることが、死ぬことよりも苦痛に感じる、あの日まで。
「でも、病院に行ったら普通、効果があるんでしょう?」私は尋ねる。
良也は答えなかった。ただ写真を分類し続けていたが、彼の手が微かに震えているのに私は気づいた。
夕暮れ時、私たちは彼のスタジオ近くの喫茶店にいた。外では夕焼けが街全体を黄金色に染めているが、私の意識は完全に良也に集中していた。
「あなたの写真シリーズ、本当に感動する」私はテーブルの上の彼の作品集を指差しながら言った。「特に、これなんて……」
良也の表情が曇る。「時々、自分が彼自身であるかのように感じるんだ。人に囲まれていても、心の中は……空っぽなんだ」
その言葉は、ナイフのように私の胸に突き刺さった。元の時間軸で、彼はまったく同じことを言っていた。それは、彼が自ら命を絶つ一ヶ月前のことだった。
「誰だって、時々そう感じるものよ」私は自分の声が必死に聞こえないよう、優しく響くように努めた。「でも大切なのは、あなたは本当は一人じゃないってこと」
彼が私を見上げると、その目には長い間見ていなかったものが宿っていた――希望だ。
「どうして、こんな話を聞いてくれるんだ?」彼は尋ねた。「ほとんどの人は、私のことをネガティブすぎるって言うのに」
「だって、私は……」私は言葉を慎重に選びながら、一呼吸おいた。「理解する価値のある人もいるって思うから。そして、あなたはそういう人よ」
良也が微笑んだ。いつもの苦々しい作り笑いではない、本当の笑顔だった。
「秘密を教えてやろうか?」良也が不意に言った。
心臓が止まりそうになった。「秘密って?」
「時々、私を気にかけてくれる誰かがいるような気がするんだ」彼は窓の外を見ながら言った。「匿名の励ましの手紙が届いたり、私の作品にコメントを残してくれる人がいたり……一度も会ったことはないけど、その人が存在するのは分かってる」
涙がこぼれそうになる。その手紙を書いたのは私だ。コメントを残したのも私。元の時間軸では、いつも遠くから彼を見ているだけで、実際に近づく勇気はなかった。
「もしかしたら……」私の声がかすれた。「その人は、あなたが思っているより、ずっと近くにいるのかもしれない。まだ、あなたが気づいていないだけで」
良也がこちらを振り返る。その眼差しの温かさに、息をするのも苦しくなった。
「そうかもな」と彼は言った。
私たちは静かにそこに座り、太陽がゆっくりと地平線の下に沈んでいくのを見ていた。この時間軸で、私が本当の安らぎを感じたのは、これが初めてだった。
彼を救える。救わなきゃ。
だがその時、良也の携帯電話が鳴った。
彼は画面を一瞥し、顔が青ざめた。
「行かなきゃ」彼は立ち上がり、声が震えていた。「病院からの電話だ……検査結果が出たって」
私の世界が、一瞬にして崩れ落ちた。
この電話。元の時間軸では、まさにこの電話が、良也の容態が急激に悪化する転換点だった。検査結果は、彼の鬱病が医師の予想よりも深刻で、即座の治療方針の変更を必要とすることを示していた。
しかし、その治療は功を奏さなかった。一ヶ月後、良也は自らの人生に幕を下ろすことを選んだ。
「良也、待って……」私も立ち上がったが、彼はすでに喫茶店から駆け出していた。
人混みの中へ消えていく彼の姿を、心臓が破裂しそうなほど激しく脈打ちながら見つめていた。
いや、今度こそ。今度こそ、あなたを一人で向き合わせたりしない。
