第3章

星奈視点

振り向くと、航平が傘を手にこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。練習帰りなのだろう、まだ運動着のままだ。ずぶ濡れの私を見て、その目に心配の色が浮かんだ。

「どうしてこんなところに? 土砂降りじゃないか――どうしてアパートに戻らなかったんだ?」航平は私に傘を差し出した。

「帰りたくなかったの」彼の心配そうな眼差しに、また涙がこみ上げてくる。

「何があったんだ?」航平は自分のジャケットを私の肩にかけてくれた。「びしょ濡れだぞ――風邪ひく」

嗚咽をこらえながら、私は図書館であったことをすべて打ち明けた。

私の言葉を聞くにつれ、航平の顔が険しくなっていく。「あのクソ野郎……。それに、あの女、白石由衣も」

「私のこと、重荷だって。感情的すぎるって」怒りがこみ上げ、私は吐き捨てるように言った。「三年も一緒にいたのに、あいつにとっては、何の意味もなかったんだ!」

「あんな奴のために泣くな」航平は私の頬から雨と涙を拭ってくれた。「ほら、戻ろう」

翔太と航平のアパートに戻っても、翔太はまだ由衣と『勉強』に出かけていていなかった。リビングは静かで、私たち二人きりだった。

「熱いお風呂に入ってきなよ」航平は優しく言った。「お茶、淹れておくから」

熱いお湯が雨の冷たさを洗い流してくれたけれど、胸の中で燃え盛る怒りと屈辱には届かなかった。

タオル一枚の姿で外に出ると、航平がソファで待っていた。どこか居心地が悪そうだ。

「星奈さん」彼は立ち上がり、葛藤を映した目で言った。「昨日のこと……謝らないと」

「謝る?」私は混乱して眉をひそめた。

「弱ってるところにつけ込んだ」彼はかすれた声で言った。「もし後悔してるとか、気まずいとか思うなら、なかったことにしていい。もう二度と、君の邪魔はしないから」

彼の誠実さが胸に突き刺さった。こんな時でさえ、私の気持ちを考えてくれている。

「私が後悔してるって思う?」私は一歩近づき、タオルを床に落とした。

「星奈……」彼は息を呑んだが、平静を保とうと必死だった。「今の君は、弱ってる。つけ込みたくない……」

私は答えなかった。代わりに、彼にキスをした。

それは、切羽詰まった欲望と復讐心に満ちた、生々しいキスだった。彼の口内を探り、その味を堪能する。

一瞬、航平の体が固まったが、すぐに激しく応えてきた。まるで一つに溶け合わせるかのように、彼の手が私の腰を掴む。

「あなたが欲しい」耳元で喘ぐように囁いた。「今、すぐに」

「本気か?」彼の声は震えていた。

「本気よ」私は彼の服を引っ張りながら言った。「この屈辱を、全部忘れたい」

航平はためらわなかった。彼は私をソファに押し倒し、そのキスは荒々しさを増していく。私の口の中から、甘さのすべてを奪い尽くすかのように舌が絡みついてきた。

彼の肩越しに、壁にかかった翔太の写真が目に入った――薄暗い光の中、自信に満ちたその得意げな顔が、私を嘲笑っているかのようだった。

「めちゃくちゃ綺麗だ」航平が耳元で喘ぎながら、私の体をなぞる。「誰よりも」

「黙って」私は彼に体を寄せながら言った。「証明して」

彼が私の中に入ってきた瞬間、強烈な快楽が喉から甲高い喘ぎ声を引き裂いた。私たちの激しい動きに合わせて、ソファが軋む。

「そう……」私は彼の背中に爪を立て、その筋肉を掻きむしった。「全部、忘れさせて」

航平はペースを上げた。突き上げるたびに、快楽の波が私を貫く。彼の力、熱、私へのむき出しの欲望を感じた。

「星奈」彼が私の名前を、唸るように呼んだ。「君は、俺のだ」

「うん……」私は彼の律動に合わせながら、喘いだ。「私は、あなたのもの」

クライマックスは津波のように押し寄せ、私は彼の腕の中で体を震わせながら叫び声をあげた。その瞬間、痛みも、怒りも、屈辱も、すべてがエクスタシーの中に溺れていった。

幼馴染なんてクソくらえ。三年間も続いた恋なんて、地獄に落ちてしまえ。

その日から、航平と私は危険なセフレ関係を始めた。

頻繁に起こる発情期には定期的な発散が必要で、航平はそのための完璧な解決策だった。

私が翔太と別れなかった理由は一つ。彼を裏切ることに、他では味わえないスリルを感じたからだ。彼を振ってしまっては、あまりにも簡単に許してしまうことになる。私は彼に苦しんでほしかった。ゆっくりと真実を暴かれ、その傲慢さの代償を払ってほしかったのだ。

航平と私が事に及ぶたび、翔太が何も知らないという事実が、復讐心に満ちた満足感を私にもたらした。

私は食堂の隅で、昼食をつつきながら座っていた。昨夜もまた発情期に駆られたマラソンだった――航平と用具室で三時間。体はまだ痛み混じりの快楽に疼いている。

「星奈?」背後から翔太の声がした。

はっと顔を上げると、彼がトレイを持って近づいてくるのが見えた。その瞳が、珍しく心配そうにきらめいている。

「疲れてるみたいだな」彼は向かいに座り、私の顔をじっと見つめた。「昨日の夜、また発情期だったのか? 彩がお前、帰りが遅かったって言ってたぞ」

箸を握る指に力が入る。こいつ、私のことを見張ってるの?

「うん」私は声を平静に保ちながら言った。「遅くまで図書館にいたの」

「図書館は十時に閉まるだろ」翔太は眉をひそめた。「お前が帰ってきたのは十一時半だった」

クソっ、いつの間にこんなに観察眼が鋭くなったんだ?

心臓が速くなるのを感じたが、冷静さを保った。「二十四時間使える自習室よ。そっちの方が静かだから」

翔太は数秒間私を見つめ、それから私の手を掴もうとした。私はびくっと身を引いたが、彼は強く握ってきた。

「星奈、謝らないと。最近、お前のことを放っておきすぎた。お前に必要なことを、無視してた」

彼の突然の優しさに鳥肌が立った。今さら謝りたいって? 手遅れよ、クズ。

「お前の発情期……辛いよな」彼は私の手を親指で撫でながら、声を和らげた。「今日の午後、一緒にいてやろうか……」

彼を遮るように、私のスマホが震えた。航平からのメッセージだ。「午後3時、野球部の用具室で。会いたい」

思わず口元が綻んだ。

「何がおかしいんだ?」翔太の声が鋭くなる。

「別に」私は素早く返信しながら言った。「私も会いたい。3時に」

翔太の目が細められた。「誰からのメッセージだ? そんなに嬉しそうに笑って」

「獣医学部の友達よ」私はまばたきもせずに嘘をついた。「インターンシップの話」

「インターンシップ?」翔太は鼻で笑い、疑念を深めた。「学校のことで、そんな恋する乙女みたいに笑うお前、初めて見たぞ」

しくじったことに気づき、私は無理やり無表情に戻した。「ちょうど難しい問題が解けたの。気分が良かっただけ」

翔太は黙り込み、それから身を乗り出して低い声で言った。「星奈、お前の発情期、手伝いたいんだ。今日の午後、もし俺が必要なら……」

彼がそんなことを申し出てきたのは、本当に久しぶりだった。だが、今となっては何の意味もない。

「結構よ」私は冷たく言った。「もう自分で何とかしてるから」

「何とかって、どうやって?」彼の口調が強くなる。

「薬よ」私はバッグを掴んで立ち上がった。「今日の午後、授業があるの」

立ち去る私の背中に、疑いと怒りに満ちた翔太の視線が突き刺さるのを感じた。

せいぜい悩み続けるがいいわ、馬鹿。あんたが真実を知ることは、絶対にないんだから。

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