第9章
真夏の空港は人々でごった返していた。私は保安検査場の前に立ち、緊張しながら辺りを見回す。
松本照一は搭乗口で会う約束をしていたが、私はつい早く着いてしまったのだ。
「澄子、どうしてこんなに早く来たんだい?」
背後から聞き慣れた声がして振り返ると、松本照一がカートを押しながら、優しい笑みを浮かべてこちらへ歩いてくるところだった。
彼は今日、明るい色の麻のスーツを着ていて、真夏の陽光の下でことさらに爽やかに見えた。
「搭乗口で会う約束だったのに、どうして早く来たんだ?」
彼は私の手から小さなスーツケースを受け取ると、そっと私の肩を抱いた。
「早く東京を離れたくて……」
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