第85章 音楽バー

藤堂湊は彼女を相手にせず、ただ冬木澪を見たまま、手にしていたフルーツジュースを彼女の前へすっと差し出した。

「搾りたてのオレンジ。飲めるだろ」

甘すぎるものが苦手だったのを、覚えている。

冬木澪はカップを受け取り、視線を落としてひと口。

甘酸っぱさが舌に広がり、胸の奥に引っかかっていた得体の知れない感情まで、すうっとほどけていく。

少し離れたところでは、北野星がミルクティーのカップを手に、小林詩乃の機嫌を取っていた。小林詩乃は彼に弄ばれるように笑い続け、暖色のライトが二人を包む。まるで、ぬくもりだけで描かれた一枚の絵。

竹内詩織は監督のところへ寄って談笑しながら、時折こちらに振り...

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