第91章 婚約

冬木澪には、どうしても理解できなかった。父は、なぜ密輸なんてことに手を染めたのか。

けれど今の彼女にあるのは怒りよりも、いち早く真相へ辿り着きたいという焦りだった。壁に向かってメモを一枚、また一枚と貼り付けていく。名前、日付、出来事――糸のない蜘蛛の巣みたいに、関係が広がり、やがて巨大な相関図になる。

最後の一枚を貼り終えた頃、窓の外は白み始めていた。

澪は壁いっぱいの文字を見つめ、ふいに高瀬梅子の言葉を思い出す。

「プロジェクト『ブラックアイス』は呪いみたいなものよ。触れた人間は、誰もまともに終われない」

その瞬間、スマホがぶるりと震えた。藤堂湊からのメッセージ。

『寝た?』

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