第2章

絵里視点

見えない鎖に引かれるように、和也が運転する車はS市の見慣れた通りを進んでいく。彼が出口を降りた瞬間、どこへ向かっているのか、私にはわかっていたはずだった。

退役軍人支援センター「憩いの杜」。

私の仕事場。心に傷を負った兵士たちが、自分らしさを取り戻す手助けをするために、人生の三年間を捧げた場所。

そして、和也が初めて、弱さを装って、私の人生に入り込んできた場所。

(犯行現場に戻ってきたってわけ、あのクソ野郎)

和也は受付へと向かった。看護師長の恵美が、赤く縁どられた目で見上げた。

「和也さん! ああ、なんてこと……この度は本当にご愁傷様です」彼女はカウンター越しに手を伸ばし、彼の手を握りしめた。「絵里は本当に素晴らしい方でした。たくさんの退役軍人の方々を救ってくださったのに」

「ええ」彼の声は感情がなく、まるで台本を読み上げているかのようだった。「彼女は……仕事熱心でしたから」

恵美の目から、また新たな涙が溢れ出した。「お体、大丈夫ですか?」

「妻の私物を、彼女のオフィスから回収しに来ました」彼はその質問を完全に無視して言った。

(あんたの嘘にまんまと騙されるくらいには、ね。このクソ野郎が)

恵美は震える手で鍵を探した。「もちろんです。時間は気にしないで、どうぞごゆっくり」

私のオフィスのドアは開いたままだった。最後の金曜日に私が残していった、まさにそのままだ。

和也は中に足を踏み入れると、すぐに私の治療用の椅子へと吸い寄せられた。彼はゆっくりと腰を下ろし、革のアームレストを両手で強く握りしめた。

机の上にはノートが開かれたままになっていた。私が最後に書き記したページで時が止まっている。「患者、五条和也。重要カウンセリング予定」

(私の、人生最大の大馬鹿な間違い)

和也はノートに気づき、机へと歩み寄った。私の丁寧な筆跡で書かれた言葉を指でなぞり、その瞬間、彼の表情から仮面が剥がれ落ちた。

「本気で俺を信じてたんだな?」彼は誰もいない空間に向かって囁いた。

でも、もう私は虚空なんかじゃなかった。私は、紛れもなく、すぐそこにいて、彼の顔をよぎる微表情の一つ一つを観察していた。

あの治療用の椅子が、私の意識の奥底に眠っていた記憶を揺り起こした。体の芯が疼くような感覚だった。突然、私は二年前の秋の記憶に溺れていた……

(回想)

彼は迷子の子犬のように、私のオフィスの戸口に現れた。神経質な雰囲気をまとい、何かに憑りつかれたような目をしていた。五条和也、28歳、最近帰国した陸軍。特殊作戦群に所属していた。

「絵里先生? 予約している者です」

あの時でさえ、彼の何かがおかしいと感じていた。決してまっすぐには合わない視線。本物に見える程度には震えているが、気を散らすほどではない手の震え。

「どうぞ、楽な場所に座ってください」

彼が選んだのは、ドアから最も遠い椅子だった。過剰警戒の典型的なサイン。少なくとも、私はそう思っていた。

「今日ここに来られた理由を教えていただけますか、五条さん」

「悪夢が、止まらないんです」彼の声は完璧なタイミングでかすれた。「毎晩、あいつの顔を見るんです……血まみれの」

「あいつの?」

「健太です。俺の……親友でした」言葉をつまらせる様子は、あまりにも真に迫っていた。「あいつは、医療ミスで死んだんです」

私は身を乗り出した。私の訓練のすべてを、この壊れた兵士に集中させた。「和也さん、生存者の罪悪感は退役軍人にはよくあることです。一緒に乗り越えていきましょう」

(一緒に、ね。ああ、なんてこと。私はなんて、どうしようもなくナイーブだったんだろう)

後になってようやく、私はその吐き気のするような真実に気づいた。彼が「健太」と言った時、それは沙耶香のことを指していたのだと。そして、彼が語り続けたあの邪悪な医者とは? ずっと、私のことを話していたのだ。

記憶が次から次へと溢れ出してくる。その一つ一つが、幽霊となった私の心に新たな傷を刻みつけていく。

週に一度、また週に一度と、和也は私のオフィスに戻ってきては、見事な精度で嘘の網を張り巡らせていった。

「彼の死に、あなたに責任はありませんよ、和也さん」あるセッションで、彼が両手で顔を覆うのを見ながら私は言った。「あなたには彼を救えなかった」

「でも、俺はそこにいるべきだった。あいつの治療をしくじった医者を、止めるべきだったんだ」

彼が「医者」と言った時の、その口調。それこそが、最初の兆候だったはずなのだ。悲しみの下に、かろうじて隠された憎悪。

私はあなたを救おうと必死になるあまり、あなたが私を狩っていたことに気づかなかった。

クリスマスまでには、私は自分が維持すると誓った職業上の境界線をすべて破っていた。

職場の近くのカフェでの「偶然の」出会い。私が直樹との破局で自暴自棄になっていたちょうどその時、軍用ジャケットを着た救世主のように和也が現れた。

「絵里先生……絵里さん……俺の命の恩人だ。このご恩は、どうしたら返せるんだろう?」

「あなたが癒されていくのを見ることが、それで十分な報酬よ、和也」

奴は私を、いとも簡単に手玉に取ったのだ。プロフェッショナルで、思いやりのある絵里先生が、自分の患者に恋に落ちる。

(回想終了)

現在に戻ると、和也は私の本棚へ移動し、ますます狂気じみた動きで私の臨床日誌を引きずり出していた。ついに堪えきれなくなったように、彼は本棚の本をめちゃくちゃに引きずり出した。本が床に散らばる。

「なぜ、虚しいんだ?」彼は私のコーヒーマグを掴み、縁にかすかに残る口紅の跡をじっと見つめた。「なぜ、これだけじゃ……満たされないんだ?」

その問いは、まるで告白のように宙に漂った。

私は彼の顔をまじまじと見つめた。私が死んでから、初めて本気で彼を見た。バスルームで見た、あの満足げな表情はもうない。代わりに浮かんでいるのは……深い喪失感にも似た何かだった。

(沙耶香が遺した空白を復讐が埋めてくれるはずだったのに、あんたがしたのは、別の空白をもう一つ作っただけだからよ)

和也は、まるで命綱のように私のマグカップを握りしめたまま、再び治療用の椅子に沈み込んだ。

彼は目を閉じた。その一瞬、彼は初めて私のオフィスに足を踏み入れた、あの壊れた患者とまったく同じに見えた。

ただ、今の私にはわかっている。あれはすべて、演技だったのだと。

……本当に、そうだったのだろうか?

(一体どうしちゃったのよ、和也? あんたの勝ちでしょ。私は死んで、沙耶香の仇は討てた。なのに、どうしてあんたは、すべてを失ったみたいな顔をしてるの?)

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