第9章
絵里視点
三日間。
それが、和也が同じソファに沈み込み続けていた時間だった。空になったバーボンのボトル群は、さながら自らの破滅を祀る歪んだ祭壇だ。
私は彼のリビングの隅に浮かびながら、自分を殺した男が目の前で朽ちていくのを見ていた。カーテンは太陽を拒むように固く閉ざされ、部屋は永遠の黄昏に沈んでいる。アルコールと汗の匂いが、空気に満ちていた。
「君もこうだったんだろう、絵里。この、クソみたいな虚しさを感じてたんだろ」
男は、また一本、空き瓶に話しかけていた。呂律の回らない声が、途切れ途切れに漏れる。軍人然とした短髪は伸び放題で、脂ぎって束になっていた。こけた頬は、剃り忘れた...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章


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