第103章

酒井初音は御影良介を見上げたまま、息を呑んだ。瞳の奥で、驚愕と揺さぶられるような感情が波立っていく。

――昔、養父の酒井家でも言われたことがある。

「初音。無理して我慢しなくていい。お前は父さんと兄さんにとって、いちばん特別で、いちばん可愛い存在なんだ」

だから、悔しい思いをしたらすぐやり返せ。後先なんて考えるな。

だって――あの人たちがいる。

いつだって逃げ道で、背中を支える盾だった。

けれど久世家に戻ってからは違った。

久世隆臣はいつも「大局を見ろ」と言った。わがままは許されない。おとなしく、落ち着いて、端正で。柔らかく、穏やかで。久世美月みたいに、善良でいろ――と。

久...

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