第108章

久世哲哉は、酒井初音という妹のことも多少は気にかけてきた。だがその「多少」は、いつだって久世美月には及ばない。

胸をえぐる痛みが、じわじわと全身を侵食していく。

久世哲哉は冷え切った湖面から顔を出した。ぱしゃぱしゃと水を払って、茶亭のある岸辺に初音の姿を探す。

かつてのように取り乱してくれなくてもいい。

せめて、そこに立っていてほしい。

自分の生き死にを――気にしていると分かる場所に。

けれど視界に入ったのは、見知らぬ護衛たちの心配そうな顔ばかり。酒井初音の姿は、どこにもない。

行ったのだ。迷いもなく、きっぱりと。

久世哲哉の瞳に一瞬灯った光は、また少しずつ消えていく。心まで...

ログインして続きを読む