第159章

その聞き慣れた声に、酒井初音は眉間がぴくりと跳ねた。視線を横へ流し、声のしたほうを見る。

――やっぱり。

久世美月が、いかにも「傷つきました」とでも言いたげな、くやしそうでいてどこか得意げな顔を貼りつけたまま、車椅子を押して一歩ずつ近づいてくる。噛み砕かれて味もなくなった、気持ち悪い粘着ガムみたいに、ねっとりと。

酒井初音は心底、吐き気がした。

視線はすぐに、美月が押してきた久世直哉の顔へ落ちる。男は相変わらず、温厚で品のいい仮面をかぶったまま――ただ、その長い脚を小さな車椅子に折りたたんでいるせいで、抑え込まれた失意と頽廃が滲んでいた。

そして二人の背後には、黒服のボディガードが...

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