第176章

「一念寺」のVIP個室。

酒井初音はパノラマガラスの前に立ち、眼下に広がる八角形のケージ――リングを見下ろしていた。

酒井正志は武井太一と向かい合う。レフェリーの合図が落ちた瞬間、武井太一が先に踏み込んだ。鋼みたいに硬い拳が風をまとい、ヒュッと唸って、酒井正志の頭部へ叩き込まれる。

武井太一の必殺――ストレート。

開始早々、いちばん得意でいちばん鋭い一撃を放ったことで、客席は一気に沸き、歓声が爆ぜた。

初音の瞳が冷える。落ち着いた声で告げた。

「緊急回避。顎を狙って」

顎は人間の急所だ。

初音は正志の過去の試合を徹夜で洗い、武井太一みたいなパワー型には、スピードでかわして連打...

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