第19章

酒井初音は、久世湊が狼狽しながらも信じられないという目でこちらを見上げてくるのを、氷みたいに冷たく見返した。

胸の奥が、理由もなくすっと晴れる。

幼い頃の彼女は酒井裕也に大事に守られてきた。けれど裕也は、外でいじめられないようにと、初音が十歳になった日から直々に打撃と組み技を叩き込んだ。

久世家に戻ってからは、誰もが彼女に求めた。

優しく、善良で、品のある令嬢であること。

だから初音は必死に牙をしまい、久世家に寄りかかって生きるだけの、従順な蔦でいようとした。

でも、もう違う。

今の彼女は彼女だ。誰かに好かれるために、本性を押し殺したりしない。

「お姉ちゃん……湊お兄ちゃん、...

ログインして続きを読む