第58章

酒井初音はこのときになってようやく、刺繍の大家・西園寺奈央が、御影怜司の親友である西園寺和也の母親だと知った。

奈央は初音のことをいたく気に入り、さらには和也とのお見合いまで持ちかけようとしていたらしい。

けれど――ただの誤解だと分かれば、他所の縁を「引き抜く」気も失せたのだろう。

奈央は目障りな男を二人とも上手く遠ざけたうえで、初音への好意だけは少しも揺るがせない。

そして、茶を飲める庭へ場所を移し、立ち上げたばかりのブランド『風に揺れる蓮』について話し合うことになった。

二人で茶をすすりながら。

秋冬の気配が濃くなる頃、蓮池の上に建つ茶亭は、枯れた蓮に囲まれてどこか寂寥を帯び...

ログインして続きを読む